ニュージーランドの教育制度
前々回に予告していた、ニュージーランドの教育制度について。EROレポートを読んでいてまず戸惑うのは、「Board of Trustess(以下BOT)」という言葉だと思う。BOTは、各小・中・高校ごとに保護者代表5人、校長、教職員代表1人で構成される組織(高校になると、生徒代表1人が加わる)だが、これを日本でいうPTAと思って読んでいると、なんのことやら分からなくなる。
NZでは、1989年に今まであった教育委員会制度を廃止して、各学校にBOTを導入した。私が移住した2001年にはこの制度はすっかり定着していたので、以前のことは分からないが、とにかく画期的なことだったらしい。なにしろ、これまで教育委員会が決めていたことをすべて、各学校のBOTに振り分けてしまったのだから。
BOTは、学校経営の統括を行う。校長を始めとする教師の人事権を持ち、学校が適切に運営されるよう、施設・設備の予算割り振り、教育方針などを決定していき、最終的な責任を負う。問題を起こした生徒の退学処置なども、BOTに決定が委ねられる。一方、校長は学校におけるマネジメント、いわゆる実務を総括する役割を果たす。
だからEROレポートでは、校長とBOTがいかにして潤滑に情報を交換し、様々な施策を決定し、業務の引き継ぎを行っていくか(BOTは原則として保護者がメンバーなので、定期的に入れ替わる)に注目する。
BOTはあくまでも統括組織なので、行事の実際の運営などはほかの保護者が行う。こういった実務レベルの協力者募集は、よく学校からちらしが配られる。
BOTには報酬が支払われるが、責任の重さと要求される決断能力を考えると、非常にわずかな金額であり、あくまでもボランティアの範疇と言える。
このBOTの保護者代表は選挙で選ばれる。たまたま、今年は娘が通う中学校のBOTの選挙の年で、私と夫宛にも立候補者募集の用紙が送られてきた。定員を超える立候補者が集まった場合、保護者による選挙となる。娘の学校はかなり熱心な保護者が多いので、たぶん、選挙になると思う。日本と違って、立候補者の募集から選挙の集計まで、第三者の機関が厳正に運営する。
BOTに選ばれるということは、信頼されており、能力が高い、と評価されているということなので、自分の仕事を調整しなければならなくても職場の理解は得やすい。もちろん、履歴書に書くことだってできる。それほど要求度、認知度が高い任務なのである。
ちょうど現在、日経ビジネスオンライン(http://business.nikkeibp.co.jp/)で、川端裕人氏がニュージーランドの教育制度について詳しいレポートを連載されている。ほんの数ヶ月、クライストチャーチに滞在されていただけなのに、現場の担当者たちへのインタビューや実際の会議への立ち会いなどの経験をもとにした、非常に正確かつ詳しい報告なので、勉強になっている。Board of Trusteesに支払われる報酬の金額なんて、この連載を読むまで知らなかった。日本のPTAでの経験を積んだうえでの比較なので、日本のPTAの仕組みをまったく分かっていない私には、勉強になることばかり。ただ、今のところ、NZの成功例について焦点が当てられているので、いいことずくめの教育制度に見えるが、決してそうではない。ということだけを念頭に入れて、読んでみるといいと思う。