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What′s up with our schools?

みなみ

通訳・翻訳者リレーブログ

 先週末に娘に付き合って図書館をぷらぷらしていたら、「教育」のコーナーで、「What′s up with our schools? a New Zealand principal speaks out」と題した本に出くわしました。このところ、NZの教育のことばかりになってしまって恐縮ですが、今回はこの本の感想についてです。
 教育、というのは、私が言うまでもないですが、子供を持つ親だけにとって重要なトピックではなく、国民全員にとって、そして国家の未来にとって大切な課題です。この当たり前のことに私が気づいたのは、かれこれ数年前、こちらの大学に行こうと、IELTS(イギリス英語圏の英語の試験)の勉強をしていた時のことでした。Writingの試験は、与えられたテーマに基づきエッセイを書くのですが、肥満、犯罪、環境、どんなテーマであっても、結局、結論として提案できるのは、「教育」になってしまったのです。例えば、肥満の問題なら、学校で子供たちに正しい食生活のバランスを教える、犯罪なら、収入を得るための手段としての教育を充実させる、環境なら、環境に配慮することがいかに重要かを子供たちに教育する、という具合です。すべての課題が教育につながっているのだなあ、と遅ればせならがびっくりしたという感じでした。
 ということで、教育のテーマが続く言い訳はさておき、今回、ご紹介する本は、Rangitoto Collegeというオークランドでも有数の名門高校の校長先生が赤裸々に教育現場の現状を伝える、というものです。ちなみにCollegeは、NZでは高校です。College以外に高校には、伝統校であることを示すGrammar、新設校に多いHigh Schoolなどの名称が使われます。
 このPeachey先生は、先週ご紹介したEROや日本の文部省に当たるMinistry of Educationのことを、「官僚主義で手続きばかりに気を取られ、学校におびただしい数の書類を押しつける」と手厳しく批判し、学校に要求する書類は「すべてjunkの山である」とけちょんけちょん。彼の主張は、「地域のことを一番分かっている校長先生とBoard of Trusteesにもっと権限(予算配分、教師の評価など)を委譲して、すべての子供たちにその地域でもっともふさわしい教育を与えよう。貧富の差を教育レベルの差の言い訳にするのはやめよう」というもの。
 彼の教育にかける熱意は高く、最高の教育を提供しようとする生徒への愛情がはしばしから伝わってきます。特に「teachers who make sure that every student can and does learn」を探すために全力を尽くします。この校長先生の下で働く先生方は、やりがいはあるだろうけれど、要求にこたえるのは大変だったろうな、と思います。
 また、各章で紹介される実名入りのエピソードが非常に興味深かったです。例えば、オークランド西部にGreen bay High Schoolという、高級住宅地にあるのにレベルが非常に低いことで有名な学校について。10年ほどで生徒数が半減してしまった期間に在任していた校長先生の次の役職が、なんとEROのChief Executiveだったそうです。つまり、生徒を半減させるほどの無能さの人をトップにかかえるEROが好むお役所主義では、生徒のことは二の次になってしまい、そっぽをむかれる、ということです。
 また、ドラッグとの戦いについての章では、高級住宅地にある名門高校であっても、ドラッグディーラーが忍びより、生徒たちを誘惑する、という話がありました。Peachey先生は地区にあるディーラーの家の前を見張り、追い出しに図りますが、自宅のポストに糞尿をつめられたり、脅迫電話や手紙が押し寄せた、とのこと。NZでは、ドラッグや大麻が高校生に与える影響が深刻になっているとは聞いていましたが、すさんだ地域だけの問題だと思っていたのでびっくりしました。
 NZに住む者、さらに来年には高校に通い始める娘を持つ親として非常に興味深く読みました。ただ、彼の経験と実績に基づいた主張がすべて理論的で、正しいものであるかは疑問。また、自信満々の言い方が鼻につく箇所があったのも事実。
 「結局、校長先生1人では解決できない問題だよね。今どうしているのかな」と、その後のPeachey先生をネットで調べてみたら、なんと2005年から国会議員となり、教育問題を中心に取り組んでいる、ということが分かりました(http://www.allanpeachey.co.nz/)。今後の活躍に期待。でも、彼が校長先生のままのRangitoto Collegeに娘を通わせてみたかったな、という気持ちもあったりして。
 あと、Peachey先生は、NZ政府のお役所主義、権威主義をひどくけなしておられましたが、こんな本が現役校長先生によって出版されることが認められる、さらに、公共の図書館に置いてある、ということ自体、すごく画期的なことなのではないか、と日本人の私は思ったのでした。

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記事を書いた人

みなみ

英日をメインとする翻訳者。2001年からニュージーランドで生活。家族は、夫(会社員)、娘(小学生)、ウサギ(ロップイヤー)。

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