ありがとう、先輩!
私は本当に幸せ者だと思う。なぜなら、うんと若い頃から“ここぞ!”という場面で、必ず人生の良き先輩にめぐり合えてきたからだ。良薬は口に苦し、ではないけれど、良き先輩のアドバイスは常に耳に心地良いものばかりではない。
帰国後初めて正社員として働いた会社でお世話になった先輩も、多くの良き先輩の一人である。今では年齢を超えて友達付合いをさせてもらっているが、当時は息を吸うだけで文句を言われるのではないかと思う程、よく怒られた。今から考えると当然である。社会的常識がゼロに等しかった私を、よく諦めずに育ててくれたと思う。彼女と出会わなかったなら、とても今の仕事はできなかっただろう。電話対応や名刺の出し方、TPOに合わせた服装のこと、お客様や職場でのコミュニケーション、人前での立ち振る舞いや話し方など、社会人として必要なことを何から何まで教えてもらった。今でも、判断に迷う時には「彼女だったらこの場合どうするか…」と考えることがある。
彼女の金言の数々、どのようなフィールドで働く場合でも通用すると思うので、ここで是非皆さまに紹介したい(ただ、私がどれ程だめな人間だったかも同時に公開してしまうことになるが…)。
「20代なら可愛い失敗ね、で済むけど、このまま30代、40代になったら誰も相手にしてくれないわよ!」
「上司としてあなたをフォローすることはできる。でもこの会社に世話になる限り、会社の方針に反した言動や迷惑になる行動については自分で責任を取りなさい。」
「必要もないのに自分の知識をひけらかすのはやめなさい。見る人が見れば、あなたがどれ程の人間か、すぐに分かるのだから。」
「“私の責任ではありません”と言う前にまず“すみません”と言いなさい。」
「頭に来た時ほど“ごめんなさい”と言えるようになりなさい。」
「自分に出来るからといって、他人に同じことを期待するのはやめなさい。」
「後輩に注意するときには必ず逃げ場を用意してあげること。いざとなったら自分に任せろ、くらいの気持ちでないと、誰もあなたについて来ない。」
「人を責めることと愛情を持ってしかることとは違う。」
ただただ厳しいだけの堅物ではなく、ユーモアのセンスもあった。
「いいこと教えてあげる。人の話はとにかく黙って最後まで聞くこと。うちの母がよく言ってた、バカは3年黙っていればバレないって(笑)」
「あなたの長所は、一度注意されたら同じミスを繰り返さないこと。でも新しい失敗を発見することにかけては、あなた天才ね!こっちは命がもたないわよ…(笑)」
厳しい言葉の数々に反発を感じ、彼女と衝突することも度々あった。彼女の本当の優しさが分かったのは、会社を辞めた時である。
「入社した頃と比べて本当に成長したわね。あなたは頑固だけど聞く耳だけは持っていたから、厳しいことも言ってきたの。若いんだからこれからいっぱい勉強して、今度は私に色々教えてね。」
自分が育てた者に対して「教えて」と言える、なんという大きさだろう。
私の親とほぼ同じ年齢の彼女は同じ時期に会社を辞め、起業して社長になった。当時ですでに50代半ばを過ぎていた。今は会社の経営に趣味の社交ダンスにと、いつ見てもしゃきっと姿勢良く、きらきら輝いている。誕生日に「おめでとう」とメールを出すと、「おだまり!私は年なんか取らない。」と返事が来る、そんなチャーミングな女性なのだ。