我が家の招き猫
去年の暮れは年末ジャンボ宝くじを買わなかった。買わなければ当たらない、と世間では言うけれど、私に大金を持たせたら
とたんに向上心を失い、とんでもなく怠惰な人生を送りそうだから、多分、神様の深遠なるお計らいで、我々は買ってもきっと当たらないんだろうな、と思う。だから買わない。
会社勤めしていた頃のお客さんに、お寺のご住職がいた。大阪のお坊さんで、退職後も現在に至るまでお付き合いいただいており、大阪人らしいテンポの良い辛口のアドバイスには何度も助けられてきた。通訳になるために勉強を始めた時にも『そりゃ、ええことや。』と心から応援してくれた。生活のためのアルバイトをしながら通訳学校に通っていた頃、そのお坊さんに『宝くじでも当たれば、勉強に専念できるのに…』とため息混じりに話したら、『あんたな、今宝くじ当たったら勉強なんか絶対せーへんで!』とこてこての大阪弁で叱られたが、試験前には『これ身に付けて、気張って勉強しいよ。』と水晶の腕輪念珠をくださった。そのお念珠は今でも肌身離さず身に付けている。
宝くじを買わなくなった理由にはもうひとつある。
ある時、舌切り雀のおばあさんや花咲じじいの隣りのおじいさんのような根性になってはいけない、と反省したからだ。我が家にはネコが三匹いる。うち一匹は薄い茶色に白い靴下で、日光に当たると黄金色に輝く、大変おめでたいネコである。このネコがなんと、宝くじを当てたことがあるのだ。掌に乗るくらい小さい頃に千円、それから何度か千円、少し大きくなってから1万円当てたのである。そんなバカな…と思われるかもしれないが、宝くじを買った時にこのネコがなんらかのアクションを起こすと必ず当たる。最初の千円の時は、宝くじの紙にじゃれてきて、10枚のうちの1枚に執拗にこだわって鼻をすりつけていたので、それを別に取っておいたら千円当たった。1万円の時は、ベランダに正しく座り、西日に向かって大きな声で『ニャン』と鳴いた。西日を受けて黄金色に輝くネコ、これはもしかしたら縁起が良いのではないか、風水でも金運アップには西の方角に黄色を置けとあるし、さてはこのネコ、いつもは寝てばかりいるけれども、恐ろしい才能を秘めているのでは…といやらしい期待に一瞬胸が膨らんだが、その時、昔話に出てくる欲深なおばあさん・おじいさんを思い出してハッと我に返ったのである。ネコに金運を期待するなんてさもしい根性では、もっと大事な運気が逃げ出してしまうかもしれない。変なプレッシャーをかけたらネコが衰弱してしまうかもしれない。反省の気持ちから、『君がいてくれるだけで十分、沢山の喜びと癒しを与えてくれてありがとね〜』と猫なで声で抱きしめたが、当のご本人は『ふむぅ〜〜〜』と鳴いて、『今頃分かったの?』という顔をしていた。