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通訳保護色論

まめの木

通訳・翻訳者リレーブログ

美輪明宏氏の書著、『人生ノート』の中に“人間保護色論”というのがある。人間はカメレオンやヒラメ同様、保護色の動物であるという。普段の生活、家のインテリア、読んでいる本、聞く音楽、日常の会話、発想などが全部そのまま見えない膜となってその人を包み込んで保護色を作り上げる。例えば歌手の場合、演歌歌手、シャンソン歌手、オペラ歌手、ジャズ歌手、ロック歌手に同じスーツを着せて舞台に立たせても、演歌歌手にはやはりその人の半径何メートルを演歌の香りが取り巻いているから、「私は何々です」という前にすぐわかる、というのだから面白い。だから、今流行っているどこどこブランドのいくらの服を着るか、ではなく、普段からいい本を読み、質の良い音楽を聴き、良い文化に接することで高い品性を身に付けることが大切、と氏は説いているのだ。

これは通訳者の場合も同じように感じる。普段使っている言語や専門分野がその人となりに影響するのか、各国語の通訳者が集まる現場では、互いに自己紹介する前からどの人が何語の通訳者か大体わかる。偏った私見にすぎないが、英語の通訳さんでは“キャリアウーマン”的雰囲気を持っている方が圧倒的に多く、まさに「できる」と感じさせる迫力がある。イタリア語、フランス語の通訳さんはとてもおしゃれだ。“おしゃれ”というのは頭のてっぺんから爪先にいたるまで、いわゆる「高級ブランド漬け」という意味ではない。さすが、ファッション業界の重鎮を数多く生み出してきた国の言語を操っているだけあって、自分の美しさを最大限表現できるファッション道に通達している感があるのだ。フランス語の方は凛としたモノトーンの気品をかもし出し、イタリア語の通訳さんはカラフルで洗練された明るさを持っている。明るさナンバーワンといえば、やはりスペイン語の通訳さんだろう。声の調子もビビッドで、周りの雰囲気を明るくしてくれる。

ドイツ語は…?『地味です。』
といっても、ドイツ語通訳者の名誉のために言っておくと、
『決して野暮ったいのではありません。』
しかし、やはり機能性にこだわってしまう。ドイツ語はフランス語・イタリア語ほどファッション関係の仕事は多くなく、メイン分野が機械・工業関係だ。工場ではまず“ケガをしない服装、すべらない靴”が第一だし、技術会議では男性が多いため、ファッションセンスに磨きをかける機会があまりないのである。同業者にリサーチしてみると、気に入って買ったブラウスでもちょっと脇がつるだけで、メモを取ることを考えて出かける前に着替えた、新しいベルトを買ったが、朝してみたら少しお腹に当たるのが気になって、結局古いのをして行った、等の話を耳にする。まずは仕事がしやすく、お客様に不快感を与えないこと、でもせめて“それなりに”シックでありたい。これらを突き詰めていくと結局、色の上でもデザインの面でも質実剛健な無難路線になってしまう。
これがドイツ語通訳者の保護色なのかもしれないが…。

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記事を書いた人

まめの木

ドイツ留学後、紆余曲折を経て通翻訳者に。仕事はエンターテインメント・芸術分野から自動車・機械系までと幅広い。色々なものになりたかった、という幼少期の夢を通訳者という仕事を通じてひそかに果たしている。取柄は元気と笑顔。

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