BLOG&NEWS

神話が崩れる時

まめの木

通訳・翻訳者リレーブログ

『私は絶対に○○にならない』という自分に対する神話が崩れるのを目の当たりにするのは悲しい。何時間立っていても絶対に足に来ないと思っていたのに、一昨年、12時間シフトで建設現場の仕事をした時には三日で音をあげた。『足が痛くなるから、夜、フットマッサージ器を貸してあげる。』と一緒に現場に入った通訳さんからの親切なご提案に対しても、『いえ、私、足は絶対に痛くなりませんから大丈夫ですぅ〜』と、“私は違うのよ”的な優越感を誇示していたのだが、三日目の夜には『すみません、貸じでぐだざいぃぃぃ…』と息も絶え絶えに彼女の部屋をノックした。
「老い」というのは「時間軸に沿って必ず歳をとるものだ」という法則を信じて疑わない人だけに訪れるものだと思っていたが、こと肉体に関しては、なかなか侮れないものがある。20代後半まで、徹夜しても次の日にまったく影響しない、時差ボケは絶対にない、肩は絶対にこらない、パソコンで目を酷使しても絶対に痛くならない、風邪をひいても一日で絶対に治るなど、絶対づくしだった神話が最近どんどん崩れ去っている。
そして悔しいことに、先日ついにマッサージ・デビューとあいなってしまった。殺人的な量の翻訳と格闘した末、首が後ろ側に曲げられなくなったのだ。これまで、病は気から、病気になるのは精神的な気合が足りないのである、人様にマッサージしてもらうなどという贅沢は自己管理のできない人間のすることだ、などと周囲に豪語していたはずなのに、いやもう、どうにもこうにも動けなくなり、近所にある中国気功整体院の門を叩いたのである。
ああ、やはり専門家は素晴らしい。気合だ、根性だ、と自己流の怪しげな療法でやせ我慢するよりも、素直に専門家にお任せすべきである。たった一時間のマッサージで心も体もこんなに軽くなるとは…。先生の話を聞けば、首の骨や背骨が歪んでいると、たとえ現時点で自覚症状が出ていなくても、放置すればいずれ必ず影響が出るらしい。つくづく無知の恐ろしさを実感した。
以来、気合や根性だけでは肉体の老化までは止められない、人様の専門技術に適宜おすがりするのも自己管理の内よと、これまでの自己管理哲学を180度ひるがえし、家の者から冷笑を返されているが、せめて精神面だけでも、「リングに上がった以上は簡単にギブアップしない」という信条を貫きたいと思っている。

Written by

記事を書いた人

まめの木

ドイツ留学後、紆余曲折を経て通翻訳者に。仕事はエンターテインメント・芸術分野から自動車・機械系までと幅広い。色々なものになりたかった、という幼少期の夢を通訳者という仕事を通じてひそかに果たしている。取柄は元気と笑顔。

END