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英語はいいなぁ…

まめの木

通訳・翻訳者リレーブログ

ドイツ語の通訳をしていて、唯一、英語の通訳さんがうらやましい!!と思うことは、ドイツ語ではロックミュージシャンの通訳する機会がまったくない、と言っても過言ではないことである。
もっとも、英語の通訳者になったからといって、必ずロックグループの通訳ができるとは限らないが、少なくともドイツ語よりはチャンスはある。なぜならば、ロックンローラーたるもの、世界のマーケットを狙うのであれば英語ができないと“かっこ悪い”からである。だから、ドイツ人のミュージシャンも最近は皆、英語が堪能だ。日本で売り出そうとするほどの心意気を持つバンドであれば当然、歌詞も英語である。ドイツの生んだ偉大なるギタリスト、マイケル・シェンカーだって、イギリスに渡った当時は英語ができなくてメンバーにいじめられて失踪したこともあるらしいが、今では立派に日本のファンに“英語で”メッセージを伝えられるようになっている。
とにかく、来日するほど知名度のあるドイツ人ミュージシャンで英語ができない、というのは論外なのだ。
ロックンローラーを自負する者は英語ができなければならない。
ところが!!
思えば叶うもの、まったくゼロと思っていたチャンスにめぐり合うことができた。なんと、ギタリストなのに英語で「guitar」の綴りもわからないドイツ人ギタリストがいたのである。私のイメージするところの「真のロックンローラー」は必ず英語ができるので、ひょっとしたら、実験音楽をロックに取り入れているような前衛的なバンドかと思ったが、とんでもない、ジャンルはメロディアス・ハードロック。しかも、北欧メタル発祥の地、スウェーデンのバンドである。そこのギタリストが英語のできないドイツ人だったのだ。
未知の専門分野に挑戦するのもこの職業ならではの醍醐味だが、好きな分野での仕事は本当に楽しい。知らない分野を一生懸命に勉強して理解した時の達成感は格別だが、好きな分野で、しかもそれが普段から趣味で接していた分野だったりすると、“理解する”ということを心から理解することができるのである。“知る”というレベルではなく、“本当にわかる”ということがわかるのだ。しかも、楽しい上にさらにおまけが付く、といったら不謹慎かもしれないが、若かりし頃、ラジオのロック番組でお声を拝聴していた評論家の某先生にも会うことができたし、サイン会では握手したファンが感激して泣きながら、
『前に来日した時は英語が通じなくてお話できなかったんですけど、今回は通訳さんがいてくれてお話できて感激です。ありがとうございました!!』
と直接感動を伝えてくれる。もちろん、ビジネス通訳の場でも『ああ、役に立てたんだな…』と思えるような親切な言葉をクライアントからかけていただくこともあるが、お世辞ではなく心から感激してもらえると、やはり嬉しい。また、一ファンの一生に残る思い出に立ち会うことができた、と思うと感慨も一入である。
同行中は他のスウェーデン人ミュージシャンのための英語の通訳さんも一緒だったが、昔から歌詞の翻訳も手掛けているベテランさんで、ロック音楽専門の通訳さんだそうだ。今は無きフレディ・マーキュリーにインタビューしたこともあるし、私が何年か前に聴きに行ったキング・クリムゾンのコンサートの時もアテンドしていらしたそうである。
仕事とはいえ、こういったお話を聞くと、やっぱり
『い、いいな、英語の通訳さん…』
と心から思ってしまうのだ。

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記事を書いた人

まめの木

ドイツ留学後、紆余曲折を経て通翻訳者に。仕事はエンターテインメント・芸術分野から自動車・機械系までと幅広い。色々なものになりたかった、という幼少期の夢を通訳者という仕事を通じてひそかに果たしている。取柄は元気と笑顔。

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