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“そうですね”病

まめの木

通訳・翻訳者リレーブログ

なくて七癖の通訳者の癖は色々あるが、最近どうも『そうですね』病が流行っているらしい。この病、お恥ずかしながら、人に言われるまで自分でも使っていたことに気がつかなかった。同業者とランチしていたときに何気なく、『最近、逐次通訳で話し始めるときに必ず“そうですね〜”で始める人多いよね』という言葉を聞き、ハッとしてフォークとナイフを握り締めてしまった。それ以来、仕事中の自分を観察してみると、やはり私も“そうですね”病に罹っていた。会社に勤めていた頃、お客さんにプレゼンテーションをした時に、『君は1分間に20回、“あの〜”を言う。あと“え〜”も多すぎる』と指摘されて、うんと恥ずかしい思いをしたので、“あの・え〜”禁止令だけは死守すべしと気を使ってきたつもりだが、ふとした時にやはり出る。10年近く意識して注意していても出るのだから、何も考えていなければ野放し状態なのは当たり前だ。
ちなみに、“あの・え〜”をやめようと思ったときは、出そうになったら声帯を閉じるように気をつけた。もともと意識して発音している言葉ではないので、唇を閉じるのでは間に合わない。声帯をきゅっと閉じてから唇を閉じて、一呼吸置くと効き目がある。一呼吸置く時は腹式呼吸で鼻から息を吸うようにすると、次に出す言葉が安定する。この方法で約10年頑張っても出るときは出てしまうので、なんでもそうだが、『ローマは一日にしてならず』、癖を直すのは遥かな道のりである。
“あの・え〜”はともかく、“そうですね”に関しては、絶対に封印すべきとは思わない。問題なのは、あまりに“そうですね”を大放出しすぎると、“そうですね”を効果的に使いたいときに効き目がなくなってしまうことだ。これではまるで、オオカミ少年状態である。それに、せっかく素晴らしい通訳をしても、文章が必ず“そうですね”から始まれば、“あの・え〜”同様、お客さまにとっては鼻につくだろう。
しかし、脳がフル回転している時、なんでもいいから何か一言あると心が落ち着いて文章をまとめやすくなることがある。これについては通訳者の勉強会でも『意味のない時間稼ぎはやめるべき』と厳しく戒められているのだが、頭では分かってはいても、舞い上がるとパブロフの犬並みに出てしまう。
例えば、
『〜なんですけれども』
『〜なのであります』
『しかしながら、これはつまりどういうことかと申しますと』
書き出しながら、だんだん落ち込んできた。しかし、こういった病を矯正するには、自分をよく観察して“マイ禁句リスト”を処方するしかない。たったコンマ数秒から数秒の間に意味不明の言葉を吐きながら、通訳者の脳は一生懸命働いているんです!と言いたいところだが、こんなことはプロとして恥ずべき言い訳に過ぎない。

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記事を書いた人

まめの木

ドイツ留学後、紆余曲折を経て通翻訳者に。仕事はエンターテインメント・芸術分野から自動車・機械系までと幅広い。色々なものになりたかった、という幼少期の夢を通訳者という仕事を通じてひそかに果たしている。取柄は元気と笑顔。

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