しみじみ…
確か、山手線の目白〜新大久保間に、白い建物がある。なんの施設だか、あるいはどの会社のものかまったく知らないのだが、最近この建物を見るとしみじみするのだ。ドイツから帰国したばかりの頃、さまざまな思いを抱いて電車の中からこの建物を毎日見ていたことがあったからだ。あの頃は、通訳者になろうなんて思ってもいなかった。毎日毎日、『この国に私の居場所はあるのだろうか…』などと悲しいことを考えていた。こんなに沢山の人が住んでいて、いろいろな職業があるのだから、どこかにきっと、ジグソーパズルがぴったりと合うように、自分にも“はまれる”場所があるに違いない。といっても、日本にはまったく基盤も“コネ”もないし、何をすればいいんだろう、どこにあるんだろう…。あの頃を振り返り、今あらためてあの白い建物を見ると、とてもしみじみしてしまうのである。
しみじみするとき、いつも湧き上がってくるのは“ありがたい”という気持ちだ。自分はなんと恵まれているのだと思う。偉大な先輩に囲まれ、お仕事をくれるお客さんがいる。いつも応援してくれるエージェントさんがいる。休みの日には好きなときにお風呂にゆっくり入れるし、夜は好きな音楽を聞きながら夫と二人で牡蠣鍋をつつくこともできる。
このようなときには、ちょっと気持ち悪いかもしれないが、今までかかわってきたすべての人々を抱きしめて『ありがとう!!!』と絶叫したくなる。なぜなら、今のこの状況があるのは、決して自分ひとりの力によるものではなく、私、というちっぽけな存在に付き合ってくださったすべての人々のお陰だからだ。自分がはまれる場所も、決して一人で見つけたわけではなく、多くの人々のサポートがあったからこそ、なのである。
特に、この三連休は実に2ヶ月ぶりにゆっくり休むことができるので、余計にしみじみする。9月の半ば頃から、通訳の準備日も含めると無休で働き詰めだった。さすがに頭の中が空っぽになった感じがする。新聞を読んでも、情報が入ってこない。ついに考えるという機能が止まってしまった。バチ当たりかもしれないが、朝起きて、今日のこと、明日のことを考えなくていいのは、なんと幸せなのだろうか…と、口を半開きにしてボーっとしながらしみじみした。
通訳学校の先生、偉大な諸先輩方、いつもお仕事をくださるエージェント並びにクライアントの皆さま、申し訳ございませんが、今日からの三日間は通訳者の鎧を脱いで、思いっきりしみじみさせていただきます♪