生涯のプロを目指して
ここでブログを書かせていただくようになってから、1年と少し経ちました。あっという間でしたが、今回をもってまめの木の独り言は終了となります。応援してくださった皆さま、そしてなによりも、まめの木の日々の心の動きにお付き合いくださった皆さま、心より感謝申し上げます。
最終回ということで、今、この瞬間にも通翻訳者を目指して頑張っていらっしゃる方々に、是非とも伝えたいことがあります。とはいえ、私もまだまだ上を目指している身ですので、偉そうなことは言えませんが…。
よく『あの人は通訳者で成功した』、『翻訳家で成功するには…』等々、ささやかれておりますが、通翻訳者の世界、特にフリーランスともなれば、どこまでやり遂げれば成功といえるような明確な尺度はありません。また、『成功』という言葉は『挫折』同様、あまり好きな言葉ではありません。なぜなら、『挫折』の回にも書きましたが、『私は成功したのであ〜る』と自分で宣言すれば、それがすなわちその人の成功になるからです。一番大切なのは、成功や幸せの尺度を自分自身の中に持つことだと思います。決して他と比べないこと。これは何事においても大切だと思います。自分にしかできない仕事よりも、自分にはまだ“できない”仕事の方が多いことを忘れないでください。そうすれば、先輩通訳さんと比べる気なんかあっという間に失せてしまいます。かといって、自分を卑下して自信喪失するのではなく、いつか与えられる場に備えて常に自分を磨いていたいと思っています。
通訳者のランクは『あります』。でも、仕事にランクは『ありません』。私は、好きな仕事で食べられること、また、仕事をいただけること自体、奇跡のようなものだと思っています。
通翻訳は技術職です。技術職とは文字通り、自分の技を売る仕事です。でも、ここに大きな落とし穴があるのです。技が認められると、自らを過信してしまうからです。過信は傲慢、怠惰の種になります。技に走って人間磨きをするのも忘れてはならない点だと思います。偉大な先輩通訳者を見ていると、皆さんとても謙虚で、素晴らしい人格者ばかりです。
そして、通翻訳者が活躍できる晴れ舞台を裏方として支えてくださっている方々の努力も決して忘れてはなりません。通翻訳者になるための努力は尋常ではありませんし、なってからも地道な勉強の日々が続くので、『私個人の力で切り開いてきたんですっ!』と力みたくなることもあるでしょう。でも、どんなに完璧な技を持った通訳者だって、無人島で一人で頑張っているだけでは仕事はないわけです。米作りには八十八の手がかかる、ではないですが、今日という日のためにエージェントさんを始め、沢山の人がかかわってくださっていることを思うと、不思議なほど感謝の気持ちがわいてきます。極端な話、時間厳守が必須の通訳者ならば、現場まで無事に届けてくれた電車の運転手さんにだって、感謝できるはずです。
最後になりますが、私の大好きな俳優、仲代達也氏の奥様でご自身も俳優であり、脚本家、演出家の故宮崎恭子氏が生前、無名塾の俳優さんたちに言っていた言葉をご紹介します。
『使い捨ての一季咲きタレントではなく、生涯のプロを目指して欲しい』
私の大好きな言葉の一つです。これは『人生のプロを目指す』と解釈することもできると思います。通翻訳業は、技と身につけると同時に心磨きもできる職業だと常々感じています。通翻訳“行”、通翻訳“道”といっても過言ではないと思っています。あらゆる人々に育てていただきながら…。
歩みが遅くたって、泥臭くたって、青臭くたって、いいじゃないですか!生涯のプロを目指して頑張りたいですね。
そして、まめの木も、頑張ります!!