先々週、“仕事机前の壁に掛かるカナダの素敵なカレンダー”について書きましたが、今回はこれにまつわる話を…。
実はこれ、私がいま最も敬愛する写真家の作品なのです。

ある日、新聞の新刊広告をぼんやり眺めていた時、ひとつのフレーズが目に飛び込んできまして…。
曰く：　“夢のようなカナダのクリスマス風景”。
写真集の紹介でした。アメリカやヨーロッパならいざ知らず、“よりによって”カナダのクリスマス…とは！　そんなテーマの写真集が成立するのか？　心ざわつきました。早速パソコンを開き、アマゾンで注文。それが『SILENT NIGHT』、そうして人気写真家・吉村和敏氏の世界との出会いでした。

数日後、手元に届いたその写真集を、ワクワクしながら開いてみると、神聖で厳かで、家族の温かさと愛に満ちた、こころ沁みる“本物の”クリスマス風景が、次から次へと飛び出てきました。
あの時の驚き…喜び…感動…といったら……。

切なくなるほどに懐かしい、原風景との再会。

この時に同時購入した、写真エッセイ集『緑の島に吹く風』には、現在に至るまでの作者の話が綴られていました。20歳でサラリーマン生活に別れを告げ、“生まれ故郷の信州に似ていると思った”カナダへ飛び、中古車を購入し、1か月かけて国を横断し、その先のプリンス・エドワード島にこころ惹かれ、1年間そこに滞在した後に、写真家としての道を歩み始めたのだとか。この話がまた、唸るほどに凄いんです！　第一線で活躍中の方は皆、その行動力が半端ではないことを改めて感じます。
更に、更に……“グレイビーたっぷりのロースト・ビーフ、マッシュド・ポテト、ニンジンにコーン、ルバーブ・パイ＋バニラ・アイス”を口にする場面も。その部分を読んだ瞬間、“お〜！　こ…これは、私が最後の晩餐に食べたいものズバリじゃないか〜！”…と、部屋の中心でひとり絶叫してしまいました（最後の晩餐に関しては、先々週を…）。
そうして夜空が白むまで、夢中で一気に読んでしまいました。

その後、機会あるごとに、彼の作品集を集めています。

草原に建つ麦の積み出し倉庫（まさに私の愛する原風景。普通こんなもの、撮ろうとは思わないでしょ！）、レイク・ルイーズ（撮り方がとにかくダイナミックで新鮮）、バンクーバー島のエンプレス・ホテル（ここの芝生の上よ、寝転がり雲を眺めるのが好きなのは）、黄色いスクールバス（メルヘンの世界…って、その感性とても素敵です）、ハロウインの仮装行列（幼き頃の楽しい思い出の一場面）、七面鳥の丸焼き（む…む…むっ）、静寂なる白銀の世界（あぁ我がカナダ〜！）。
私のこころにある情景に満ち溢れていて、息が詰まるほどの衝撃…でしたね。

雪化粧の山々、深緑の針葉樹、黄金色の牧草地、素朴な白い木造住宅、愛情注がれた庭園や花壇、カナダグース飛び立ちの瞬間…。
時間の移ろい、季節の移ろい、雨・風・雲・雪・氷・霜・露・霧・靄。太陽と月、朝焼けと夕焼け、光と影。自然の尊さ、荘厳さ、儚さ、優しさ、温かさ、穏やかさ、たおやかさ、愛おしさ…。
物語のある風景。
その一瞬一瞬を、見事なまでに捉えた一枚一枚。

美しい————。

作者の筆による文章がまた素晴らしい。詩のような響きに溢れ、写真に静かに寄り添っています。

ただ美しいだけの風景写真や写真集なら、幾らでもあります。“凄い”と思う写真家なら、仕事場で何人にもお会いしています。が、彼等は、編集部側の意に沿った仕事をする、被写体を記録する職人。一方この写真家は、自分の世界を持った、芸術作品を生み出す芸術家・表現者。音楽家と同じ“におい”のするひと…。まぁ理屈っぽいことはさて置き、とにかく、彼の切り取る絵・表現するものから受ける思いは、すべてを超越していました。何よりも、カナダを包み込むような、暖かなまなざしが随所に感じられ、それが物凄く嬉しかったですね。

懐かしい色、懐かしい音、懐かしい匂い……。ほんと、思いきりジャスト・ミートでした。

そうそう、とっても余談ですが、作者紹介の写真に映るこの写真家、“あぁ、天は二物を与えちゃったのねぇ〜”という感じの御方です。溜息。

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お勧め作品集：　『光ふる郷』(02。この世の桃源郷)、『草原につづく赤い道−プリンス・エドワード島の12か月』(03。詩のような写真＆文満載)、『あさ/朝』『ゆう/夕』(04。詩人・谷川俊太郎氏とのベストセラー)、『緑の島に吹く風』(05。感動の写真エッセイ集)、『ローレンシャンの秋』(05。毎年5日間だけの夢世界)、『SILENT NIGHT』(05。作家・石田衣良氏とのコラボレーション)、『こわれない風景』(06。私のNO.1宝物)、『林檎の里の物語』(06。同作が評価され、日本写真家協会新人賞受賞！）。