この業界の現実、作り手の思い
先日、業界仲間達と、新宿駅近くで早い夕食を済ませてから、レコード店巡りをしました。そう、駅近くのとある界隈は、ハードロック&ヘヴィ・メタル・ファンのメッカでして、ディープな店が幾つかあり、私も学生時代、頻繁にハシゴしたものです。でも、この世界で仕事するようになってからは、殆ど通わなくなりました。ですから今回、久々に“ファンだったあの頃の熱き思い”を思い出し、ちょっとウルウルしちゃいました。また、店内に貼ってある宣伝ポスターやビラに、自分が書いた文章を発見したり、対訳やインタビューなどで関わった、思い入れある作品を見つけたり…と、当時では想像も出来なかったこともあり…で、とても不思議な感覚に陥りました。まぁ、通っていたのは、もう20-30年前の話ですからね。うーん、思えば遠くへ来たものだ…です。
でも、そういう感覚とは別に、いや、それ以上に強く感じた、いや、ショックを受けたのが、この音楽業界の厳しい現実でした。改めて…ですが。だってもう、移転しているわ、その新店舗が、昔よりも狭くなっているわ、品数は減っているわ、客は殆どいないわ…という店が多くて。そう、ご存知のとおり、近年アルバム売上げは芳しくありません。
出版業界も同じ状況にあります。そう、本・雑誌も売れません。
アルバムや本を購入する、音楽好きや読書好きは、相変わらず存在するものの、それはあくまでも“一部”であり、その“人口”は減っているのだと言われます。消費者の関心の多様化? お金を出す価値ある作品がない? うーん、どうなのでしょう…。
逆に、貸し業者&中古屋等は、商売繁盛…です。
数年前、図書館で“新刊”を貸し出していることを知った時は、愕然としました。おまけに、それが話題本だと、10冊くらいは入り、長い“順番待ちリスト”がある…のだそうですね。まぁ、個々の台所事情などにより、図書館を利用するのは、もちろん理解できます。そういう人達を、ここで非難するつもりはありません。でも、でも…です、購入能力のある方には、ぜひぜひ書店へ足を運び、定価で購入して欲しいと思います。
“ものが増えて部屋に納まらないから、借りるしかない”とのたまう友達がいますが、それはあーたの個人的な事情、作り手とは何ら関係のないこと。部屋の大掃除をするなり、そちらで何とかしてくださいな。
“読んでみてつまらなかったら、お金がもったいないでしょ!”と言ってのけた人もいますが、あーた、それは“食い逃げ”と同じですよ。結果的にどんなに不味くても、どんなに口に合わなくても、その時は代金を支払ってくださいな。そのレストランへ、二度と行かなければ良いだけです。そう、その人の作品を、二度と買わなければ良いのです。
重ね重ね言いますが、こちらの意見を押しつける気は、更々ありません。が、ひとつだけ、頭の隅っこにでも、入れて置いて欲しいな、ほんの少しでも良いですから、考えて欲しいな…と思うことがあります: アルバムも書物も、売れなくなったら、つまり皆さんが買わなくなったら、どうなるか……。ずばり、新しい作品が世に生み出されなくなります。だってですよ、業界にお金が回らなくなれば、新しい作品を生み出す予算がなくなり、アーティストやスタッフの生活が成立しなくなり、新人が生まれ育つ土俵がなくなるわけですからね。そうして、音楽を聴く楽しみも、本を読む楽しみも、なくなってしまうわけです。そう、図書館で本を借りることすら、出来なくなるわけです。至って単純な話です。
はい、つまり、図書館で新刊を借りている皆さん、いま手にされているその書物は、“お金を出して本を買ってくれる人々”がいるからこそ、手に出来ているのですよ。
どうかその辺のことだけは、忘れないで欲しいと思います。
どうもこの国の人々の、知的財産に対する意識、芸術や芸術家を慈しむ気持ちが、希薄のような気がしてなりません。どうしてなのでしょう。欧米の友達とは、感覚が明らかに違います。環境の違い? 教育のせい? 答えは出ません。業界仲間で集まる度に出るのは、“とにかくアートやアーティストへのリスペクトが足りない”という話ですが…。つまり、アーティストの比類なき才能や、その作品に注ぐ思いや費やす時間に対する、理解や敬意の欠如。まぁ、そういうことです。
そうそう、ある写真家の個展へ行った時のこと。会場で作品集を数冊購入し、サインを貰ったのですが、その写真家、サインを書き終えては、本をゆっくりと閉じ、表紙と帯を正し、そうしてサッとひと撫でしてから、渡してくれまして。1冊1冊、丁寧に、繰り返し。その一瞬、その人の“自分の作品に対する思い”がひしひしと伝わり、とても温かで幸せな気持ちになりました。そう、アーティストにとり、その作品、その1枚1枚、その1冊1冊は、自分の分身のようなもの。命がけで生み、愛情を一杯注いだ、愛おしくてたまらない存在なのです。そういうアーティスト・表現者に敬意を表し、その気持ちや姿勢に、皆さんと少しでも、想いを馳せられたら…と思います。