♪メタル・ゴッド♪
昔々のその昔、10代の頃からずっと、好きで好きでたまらなかったバンドがいます。
当時、“好きなタイプは?”というお決まりの質問をされるたび、そのバンドのギタリストの名を挙げては、健全なる御学友達を思い切り凍らせていました。
そうして授業の合間、ひとりになった瞬間には、キャンパス内の木々の下のベンチに座り、ウォークマン(そう、当時はカセットテープを入れる、分厚く重いあの代物でした)で彼等のアルバムにウットリ。すると、同時通訳クラスの教授に見つかり、“そういう音楽をそういう状態で長時間聴いていると、難聴になって、会議通訳者にはなれないぞ。耳はなぁ、いったん駄目になると、回復はしないんだぞ!”…などと驚かされたものです。
あれから20数年、いまだ飽きずに“そういう音楽”を聴き続け、でも耳はまだまだ元気な私は、結局その会議通訳者にはならず、代わりに(?)“そういう音楽を演奏するバンド”にインタビューし、記事を書く仕事をしています。
いやはや、人生、どこでどうなるか分からないものです。
で、その“好きで好きでたまらなかったバンド”が、ジューダス・プリースト。そう、“メタル・ゴッド”と呼ばれ、ヘヴィメタル界に30年以上も君臨し続ける、英国出身のバンドです。
最新作を発表し、この秋の再来日公演も決定している彼等に、先日、個別にインタビューする機会に恵まれました。相手は、ツイン・リードのK.K.ダウニングとグレン・ティプトン。そう、私の“好きなタイプ”の御ふたりであります(笑)。
彼等とはこのところ、毎年のように話をしているのですが、いちファンだった当時の想いを裏切らないような、それはそれは穏やかで温かくて、本当に本当に魅力的な人達なのです。
いつも驚かされるのは、前回のインタビュー内容を覚えていること。当たり前の話ですが、私はインタビューに挑む時には、自分がこれまでに書いた記事を、必ず読み返しながら、相手の過去の発言を再確認します。でも彼等の方が、“前回こんなことを言ったけど…”などと、その時々の話の続きをしてくれたりするのですから…。世界中で数多くのインタビューを受けている彼等が…ですよ! どうなっているのでしょう? 感心します。
おまけに、限りなくソフトな口調、そうしてあのルックス。それで“それはね、ぺこたん”とか、“ところでさ、ぺこたん”…などと言われると、もう、いきなりガバッとひれ伏し、“貴方達をとことん応援いたします!”…と宣誓したくなります。あぁ、やれやれ〜。
話しを戻して、
ミュージシャンにインタビューするのは、たいがい新作発表前後か、来日直前の頃。そうしてそのタイミングでは通常、その作品を引っ提げてのワールド・ツアーに出ている場合があり、今回のジューダスも、ちょうどヨーロッパ・ツアーの真っ最中。そういう時期はとても忙しく、疲れているものですが、彼等はいつものように、快く話を聞かせてくれました。
K.K.がインタビューを受けてくれたのは、移動中のツアーバスの中。
ヴォーカリストのロブ・ハルフォードも、すぐ隣で、別インタビューを受けている…という状況下。彼のあの“御声”まで聴こえてくるなんて、冷静に考えれば、とてもとても贅沢な話…なのです…が、でも場合が場合なだけに……。おまけにK.K.が使用しているのは、携帯電話。つまり、それでなくても聴き辛いわけです。ですからその後のテープ起こしを考えると…少々焦りました…が……“ほら、ロブが隣で‘Hi!’って言ってるよ!”…などと言われ、“あぁ、もう、なんとでもなれ〜”…の心境になってしまいました(苦笑)。
結局日を改め、ホテル滞在中に、取材の後半を受けてくれたのですが、開口一番、“この間は、あんな状況下でのインタビューで、ほんとごめん”…と繰り返し丁寧に謝られました。
一方のグレンは、ツアー先のホテルの一室。
ところが、1週間ほど前から盲腸炎で体調不良とのこと。直前になり、“今日のインタビューを延期したい”と電話してきたのですが、その数時間後、今度は“痛みが和らいでいるので、これからやっても良い”との連絡が…。
そうしてそのインタビューですが、音がハウリングして、どうも調子が悪くて。そのことを伝えたら、“ここはどうかな?”…などと言いながら、部屋の中を少し歩き廻っては、電波状況の良い場所を探そうとしてくれまして…。体調が思わしくない時に、本当に申し訳なかったです。
結局ライヴを2夜キャンセルし、いったん母国へ戻った後に、再びバンドと合流し、ツアーを続行。これまでライヴをキャンセルしたことは1度もなく、それをとても気にかけていたよう。凄いプロ根性です。
還暦を過ぎているのですから、本当はもっと体を労わって欲しいと、個人的には強く思うのですが、何しろツアー日程がぎっしり詰まっていて、世界中のファンが待っているわけですから、そうそう休んでもいられないのですよね。
ところで、こうして長い年月、第一線で活躍し続けられているのには、ちゃんと理由があるように感じます。
サウンド面では、自分達らしい音を追求しつつも、一か所に安住することなく、常に新しいことに挑戦し、変化を厭わず、前進し続けていること。過去の作品も、それぞれに趣が異なりますし、いま聴いても“古さ”を感じないのですから、凄いと思います。
それからプライベートでは、とにかく“地に足がついている”ということ。堅実で常識的。今回のインタビューも、ミュージシャンらしからず(?)、早朝スタート…で、“大丈夫かな”と心配になったのですが、ちゃんと起きて待ってくれていました(笑)。また“時々ゴルフを楽しんでいる”…との話も、以前に聞いたことがあります。
そうして、これは長いキャリア中で培ってきたことなのか、そういう人達だからこそ、生き残ることが出来たのか、その辺のことは定かではありませんが、とにかく人間的によく出来た、本当に魅力溢れる人達なのです。約束は絶対に忘れずにいてくれますし、穏やかで温かくて紳士的で凛々しくて気遣いの人達で、ユーモアのセンスがあって知的で気品と色気があって……と、その魅力を書き出したら、キリがないほど。
さて、現在好評発売中の通算16作目のアルバム『ノストラダムス』は、文字通り“ノストラダムス”の一生を、音楽と歌詞で表現した力作。プレリュード込みで計23曲、100分以上にも及ぶ、壮大な“メタル・オペラ”で、“前々からやりたかったタイプのコンセプト・アルバム”…なのだそうです。
待望の再来日公演は、9月24日より、名古
屋→大阪→横浜→東京・武道館…と廻る予定。既に完売の日もあるので、ご注意を。
ジューダス・プリースト。これからも息の長いバンドとして、素敵なアルバムとライヴで、我々に感動を与え続けて欲しいものです。
それにしても、10代の頃から夢中で聴いていた彼等と、後年こうして仕事で関わるようになるとは…。人生の不思議な巡り合わせを、感じずにはいられません。