まったくアーティストって人種は……
先日テレビで、“凄腕修理職人”の特集をやっていました。
たまたま付けたチャンネルであり、最初はボーッと眺めていただけなのですが、これがなかなかに興味深く、最後まで見入ってしまいました。
紹介されていたのは、壊れた時計を修理する人、古い紙焼写真を蘇らせる人、服やバッグ等の染みや汚れを抜く人など。腕一本で勝負してきた、その分野の専門家。
何年も何年も、ひとつのことに没頭し、ひとつの疑問に対する答えを、見出すまで追い求め、その集中力を長いこと持続できた人々。その地道な努力、長い道のりを、苦とも長いとも感じずに。その辺の凡人なら、“大変だったでしょう。辛かったでしょう”と、安易な言葉で片付けてしまうような事柄を、特別意識もせず、気がついたらそこに立っていた。その過程をむしろ、楽しんでこれた…というような人々。
みんな本当に凛々しく、輝いていました。
これぞ職人…創作家…アーティスト…プロフェッショナル。
例えば、
岩壁の一点を、愛おしそうに見つめながら、何かブツブツ呟いているような人。
声をかけても、こちらの声など聞こえず。仕方ないので、その横でノンビリしていると、しばらくしてから振り返り、満面の笑みで、こう言ってのけます:
“いやぁ〜、ここの割れ目が美しくて、見惚れてしまったよ!”…と。
そうして繰り返し、その岸壁に足を運んでは、その“美しい割れ目”を、同じように見つめ、同じように感動しているような人。
例えば、
しばらく連絡が取れず、“いったい何処で何してるんだろう”…と思うような人。
忘れた頃に突然、その人から電話が入ります。それもザーザー雑音まじり:
“おー生きてたか。で、いま何処よ?”
“イ・ン・ド!”
“な…なーんで、いきなり、インドさ??”
“いやぁ〜、突然ガンジス川に沈む夕日が見たくなってさ。で、気がついたら、飛行機に乗ってた!”
“はっ??”
その時々の閃きやときめきで、いきなり行動してしまうような人。
みんなみんな、本当に魅力的です。
こういう人たちには、その輝きを保ち続ける為にも、その他のことは気にせず、惑わされず、余計な“雑音”からは距離を置いた、そんな環境の中で生きていて欲しい。そうして周囲は彼等に、他のことを求めたり強いたりしないで欲しい。ほどほどに。
先日、ある大物ミュージシャン・プロデューサーが逮捕されました。
ひと言では表現できないほど、思いはとても複雑です。
無論やったこと、その結果に対しては、罪を償わなければなりません。
“贅沢三昧の生活”…などと、報道するところもあったようです。しかし、その才能で、それだけ稼ぎ出したのですから、贅沢できたのですし、しても良い立場にあったはず。良質のものに囲まれた生活は、けっして悪いことではありませんし、むしろ、クリエイターとしての“栄養”になる場合だってあります。
一流ミュージシャンは、プライベート・ジェットやファースト・クラスでツアーしていますし、自宅に“非常に贅沢な”ホーム・スタジオを建て、“非常に高価な”機材を所有しています。
そのことに関し、周囲にとやかく言われる筋合いはありません。
でも上述の彼の場合、そこからここへと至るまでの経緯、その間にいったい何があったのでしょう。
私が疑問に思うのは、つまり、そんな彼を陰で見守り支え、時には苦言を呈するような存在がいなかったのか…ということ。そういうブレーン、ビジネス・パートナーがいなかったのか。著作権問題のエキスパート、そうして財産管理をしっかりできる人さえいれば、こんな事態に陥らずに済んだのでは…。
悔しい。
職人…創作家…アーティストは、概して自己中心的ですし、空気も読めないし、ワガママです。他のことに興味はないし、だいたい出来ないし、やろうとも思っていない人が多い。はっきり言って、“普通の常識”では考えられないような、メチャクチャな輩もいます。
でも、それが何か? それで良いのです。何ら問題はありません。
ただひとつだけ…。だからこそ、出来ることなら、ビジネスにはあまり深入りしないで欲しいということ。
勿論そちらに長けているのなら、そちらに夢中になってしまったなら、それはそれで良いし、その場合はその道を極めれば良いと思います。
ただしそうなったら、アーティストとしてどうなのか、それは分かりませんが…。
実際、ビジネス・パーソンとしての手腕を発揮している人には、どういうわけか、創作家としての輝きを失ってしまっている人が、実に多い。感性の泉が枯れてしまうのか、どうしてなのか…。
アーティストとして輝き続け、長いキャリアを築いている人には、信頼のおけるビジネス・パートナーやチームが、たいがい存在します。
そう、創作活動とビジネス。両方やろうと思うことはないし、両方できなくても、それでも良いのです。そういうビジネスに長けたプロフェッショナル、心の支えとなってくれるパートナーを見つけ、その人と組めば良いだけの話です。
ビジネスに関するトラブルに巻き込まれながらも、再起し、現在も第一線で活躍しているミュージシャンを、多く見てきています。そんな彼等に共通しているのは、誰もが否定できない、アーティストとしての類いない才能です。
先の大物プロデューサーの手掛けてきた音楽は、個人的には好きなタイプではありません。でも、どこを切り取っても、彼独自の世界が存在しますし、いち時代を築いたあの才能は、半端ではないと固く信じています。
だからこそ、非常に残念でなりません。
彼には今後、真実を明らかにし、その罪を償い、身辺をきれいに整理し、信頼のおけるビジネス・パートナーを見つけ、立ち直り出直し、そうして我々音楽ファンの前に戻って来て欲しい。
時間は掛かるかも知れませんが、それは十分可能だと思いますし、それが彼の使命だとも感じています。
それだけ彼にしか出来ないもの、素晴らしい才能を持っている人なのですから……。このまま埋もれてしまっては、もったいないし、そんなこと私は許しませんぞ〜!!