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アンヴィル! 夢を諦めきれない男たち

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通訳・翻訳者リレーブログ

このところ業界の友だちに会うと、開口一番、まるで挨拶代わりに、こんな会話になります:

“ねぇ、アンヴィル映画、もう観た? あれ最高だね! 久しぶりにグッときたよ!”

あぁ、なつかしの、アンヴィル!!

遡ること約25年前。ロック・フェスティヴァルなど、日本で殆ど開催されることのなかった1984年。
ボン・ジョヴィ、MSG、ホワイトスネイク、スコーピオンズ……という、夢のようなメンツのHR/HMバンドが一堂に会し、全国のスタジアム級の会場を廻る、夢のようなイヴェントが開催されました。

伝説の“スーパーロック‘84イン・ジャパン”。

現在、音楽業界に身を置くHR/HM系スタッフやミュージシャンたちで、30代後半より上の人たちの、95%はあの場にいた…と言っても過言ではないほど。それほど“凄い”1日だったのです。
当時まだ学生だった私も、西武球場(=まだ屋根なし)で行なわれた、東京公演に参戦。

ホワイトスネイクのデヴィッド・カヴァーデイル(ヴォーカル)は、私の“初恋”のロッカーですし、MSG(マイケル・シェンカー・バンド)のマイケル・シェンカー(ギタリスト)は、その当時の私の“恋人”、いや…“命”、いや…“神さま”。ワットエバー。彼と兄ルドルフ(スコーピオンズ)との兄弟対決も、密かに期待していました。

“戦い”の数週間前には、都内の“ロック街”で、MSGのロゴ入りスカーフを、そうして文具店で、“長い木の棒”と“靴紐”を購入。それでハンドメイドの“MSG旗”を制作。もちろん、彼等のライヴ中に振る(…振りまくる)為の応援旗です。
ああ、あの頃は若かった!

で、いよいよ当日。
電車を乗り継ぎ、会場のある西武球場前駅に辿り着くと、もはや何か“大音量”が流れているではないか!
“えっ? あぁ、イヴェントを盛り上げる為のBGMね。まぁいいや…”
そう思いながら、会場をグルッと1周。ワクワク・ソワソワ、ハンドメイド旗を握り締め、頭の中はマイケル“命”“神”シェンカーのことで一杯。

ようやく座席を見つけ、ホッとしながらステージに目を。
すると、そこにはもう、何だか知らんが、バンドが立っているではないか!
“えっ、これって? うそっ? もしかして、もう始まってるの?!”

それが当日のオープニング・アクト、アンヴィルでした。

そうして、これが結構よかったんです。
LPは所有していませんでした、が、当時通っていたロック・ディスコでは、よく流れていたので、曲は知っていました。
が、しかし、ライヴがこんなにカッコいいとは……。

はい、本当にカッコよかったんです。曲もキャッチー、プレイもなかなか。見た目は、うーん、まぁ愛嬌があるし。とにかく一生懸命プレイしているみたいだし、楽しんでいるのが伝わってくるし…で…。
で、結局、最後まで聴き入ってしまいました。
“席が見つかったら、会場脇の売店で、Tシャツとかグッズとか、それから何か飲み物&スナック、買いに行こう。MSGまでに戻って来ればいいし〜”…などと話していたことも、すっかり忘れてしまったほど…。

その直後に登場した新人バンドが、“なんだかなぁ”の出来栄えだっただけに、尚更のこと、彼等のカッコよさが印象に残りました。
でも、この、“その直後に登場した新人バンド”が、その後に大化けし、ワールドワイドなロック・バンドへと成長し、今でも第一線で大活躍しているんですよね…。

世の中、本当に分からんもんです。

その後に登場したベテラン勢も、その後アルバムを売り続け、何度も再来日を果たし、着実にキャリアを積んでいきました。

が、しかし………

一方の“予想外にカッコよかったオープニング・アクトの彼ら”…ですが、イキのいい新人バンドがどんどん登場し、時代が変わりゆき、音楽業界が変貌してゆく中、いつの間にか、その名すら聞かなくなっていました。

どーした、アンヴィル!!

余談ですが、その後、こうして音楽業界で仕事をするようになり、当日参加したバンドすべてと、1度以上、仕事をしています。
このアンヴィル以外…とは……。

そんな彼らの名を、再び目にしたのは、西武球場から約25年。つまり、ついこの間のこと。一昨年、あるライヴ・イベントのラインアップ中。
“えっ? アンヴィルって、もしかして、あのアンヴィル??”
驚いたのなんのって! 解散もせず、現役で活動していたことすら、私は知りませんでしたから。

そうして今回の映画です——。

監督のサーシャ・ガバシ氏は、高校時代の夏休みに、ローディーとして、アンヴィルのツアーに参加した経験の持ち主。
30年経った現在でも、バンドが地道に活動し続けていることを知り、驚き感動します。そうして彼等の“いま”を追った映画の制作に乗り出し、その夢とは程遠い現実を、約2年間追いながら、ひとつの作品として世に送り出します。

その“現実”は、過酷そのもの。
例えば、“久々のツアーに出られる”…と喜び勇んで、ヨーロッパに乗り込んだものの、会場は小さなクラブばかり。おまけに人はまばら。それ以前に、バス運転手が道に迷い、開演時間にすら間に合わない有様。
でも、何だかんだありながらも、それでも無事終了した…と思ったら、今度はギャラが約束どおり支払われない。いや、ちゃんと契約を交わしていたのか、それすら怪しいようなマネージメントぶり。その上、電車やホテルの予約すら、まともに取れていないときた。
なんたって、彼らのツアー・マネージャー、ファン同然の素人。あれじゃあ、うまくいくわけがない。

まぁ、どれもこれも、“新人バンド”であれば、大なり小なりある話。でも彼らは一応、デビュー30年の人たちですから…。

めげるな、アンヴィル!!

でも、どうして、こんなことになってしまったのでしょう?
しつこいようですが、25年前の西武球場では、彼らの後に登場したバンドよりも、ずっと良いものを持っていたのですが……。

でも、でも、
生き残るには、“良い曲を書いている”とか、“演奏が上手い”…というだけでは、哀しいかな、駄目なんですよね…。

これは、バンドのマネージメント業に長年従事してきた友人も、言っていたのですが……
例えばバンドであれば、リーダー格がひとり、いなければなりません。それは、他のメンバーを従わせるような、とても冷静で強くて、マネージメントやプロデュースの才にも長けた、とても利口な人物。
メンバーみんな穏やか…というバン

の場合には、非常に有能なマネージャーand/orマネージメント・オフィスが、ずっと付いていれば、何とかなります。でもこの場合はあくまでも、“有能なマネージャー+子羊のようなメンバーたち”…という組み合わせでなければ、まず機能しません。
それから、ソロ・アーティストの場合には、これまた色々ありますが、でも大事なのは、自分を客観視できるような性格。そういう人物は、何かと強い。
上記に加え、意外と無視できないのは、“居るべき場所に居るべき瞬間に其処に居ること”。運とかタイミングとか偶然とか必然とか、まぁそういうことです。これは別に、ミュージシャンに限ったことではないと思いますが…。

それにしても、アンヴィルの周囲にいる人たちの、温かくて素敵なこと!
それは厳しい兄弟だったり、可愛い息子を見守る母親や、弟の才能を信じ続ける優しい姉だったり。
中でも微笑ましかったのは、“夢見る旦那たち&冷静で現実的な妻たち”…という、よくある図式(ン?)。でも、これがまた、なかなか良い感じなのであります。

個人的には、彼らの地元トロントの冬景色や、あの空気感や、クリスマス風景に、グッとくるものがありました。理屈抜きに、美しい。

ほんと、この映画、色々な意味でジーンときます。
音楽や仕事や人生や喜びについて、しんみり考えさせられます。彼らやハード・ロック・ファンならずとも、十分に楽しめる内容に仕上がっています。

がんばれ、アンヴィル!!

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高校までをカナダと南米で過ごす。現在は、言葉を使いながら音楽や芸術家の魅力を世に広める作業に従事。好物:旅、瞑想、東野圭吾、Jデップ、メインクーン、チェリー・パイ+バニラ・アイス。

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