猫が行方不明
里親を募集して間もなく、数件の問い合わせがありました。でも、里親えらびは慎重におこなわなければなりません。聞いた話によると、善意の里親になりすまし、三味線の材料や動物実験用に払い下げて金銭を受け取ったり、保護主から去勢費用をだまし取ろうとする人もいるらしいのです。そこで、実際に猫を飼うお宅を拝見した上で里親を決めることにしました。電話とメールで何回かやり取りした後、二家族に二匹ずつ引き取ってもらうことになりました。一組はご主人が定年退職されたばかりのご夫婦、もう一組は小学生のお子さんを持つピアノの先生宅です。
里親が決まってホッとしていたところに、突然、行方不明になっていたミーコが帰ってきました。でも、身体はすっかりやせ細り、体毛は汚れて毛づくろいもままならない様子。獣医さんに診てもらったところ、恐ろしいパルボウイルスに感染していることがわかりました。公園の野良猫から伝染したようです。行方不明になる直前に嘔吐の症状があったので、その時点で既に感染していた可能性があります。ということは、子猫たちにも・・・
その翌日、ミーコは帰らぬ猫になりました。死期を悟った猫が、人目につかない静かな死に場所を選ばずに、なぜ無理をしてまでわが家に戻ってきたのか。猫にそんな感情があるなんて、にわかに信じがたいのですが、子猫たちに会いに来たとしか考えられません。
ミーコのお葬式(と言っても、動物霊園の人に引き取ってもらうだけでしたが)を終えると、心配していたことが現実になりました。子猫たちが次々と嘔吐しはじめたのです。生き残る可能性は低いと言われましたが、動物病院でインターフェロンの治療を受けながら経過を見守ることにして、感染を免れた茶トラだけを先に里親さんへ引き渡しました。
小さな身体にでっかい注射を打たれながら、子猫たちは本当によくがんばりました。その甲斐あって、三匹とも奇跡的な回復を遂げました。あとは里親さんが引き取りに来るのを待つばかり。うれしいような、さみしいような・・・
猫たちが去った後は、娘を嫁(正確には「息子を婿」)に出した老夫婦のような心境でした。心にぽっかり穴が開いたままの、妻と二人だけの静かな毎日。翌年の春に長男が生まれ、再びにぎやかな生活が待っているなんて、その時は知る由もありませんでした。(おわり)
追伸:猫たちは今も元気です。