モスクワ生活の楽しみ
意外と思われるかもしれないけれど、モスクワは世界一物価の高い都市らしい。最低限必要な食材はものすごく安いけれど、外食はとんでもなく高い。洋服や靴も品質に見合わない高価格。家賃もとんでもなく高い。ソ連崩壊のときにモスクワに住んでいた人は、国から無償(!)で提供されたアパートに住んでいるから家賃の心配をする必要はない。我が家みたいにモスクワ以外から来た者は、家賃の負担に泣く。
そんなモスクワで在宅翻訳をする私のささやかな楽しみは音楽鑑賞。物価が高いモスクワだけど、クラシックコンサートのチケットはべらぼうに安い! だから、気軽に足を運べる。さすが芸術の国ロシアは、こうして国民が音楽を楽しめるようにしているんだなと感心してしまう。私はピアノのコンサートが好きで、月に1、2回コンサートを聴きに行く。
5月21日、24日の二夜にわたり、ニコライ・ルガンスキーのコンサートに行ってきた。ラフマニノフのピアノ協奏曲第1番から4番までの全曲演奏。オケは、ボリショイオーケストラ(アレクサンドル・ヴェデルニコフ指揮)。ラフマニノフ生誕135周年記念コンサートだそうだ。でも、135年記念って…普通10年きざみくらいでは? ずいぶん無理やりな記念だとは思いつつ、ラフマニノフは好きだし、興味深いプログラムに心ひかれてしまった。「パガニーニの主題による狂詩曲」のおまけもあり、どっぷりラフマニノフの世界に浸ってきた。
ロマン派ピアノ協奏曲の王道とも言える第2番は、思いっきり甘美に演奏してほしかった私には肩すかしだったけれど(でも会場は熱狂的な拍手とブラボーの嵐)、大好きな第3番のルガンスキーの演奏が素晴らしかった。泣いてしまった。
普段家に閉じこもって、ひたすらPCに向かう生活を送る私にとって、こういうひとときは、ものすごく貴重。心が癒される。
今お気に入りのロシアの若手ピアニストは、昨年のチャイコフスキー国際ピアノコンクール入賞者のミロスラフ・クルティシェフとフョードル・アミーロフ、ちょっと先輩のアレクサンダー・コブリン。それぞれ、年に3、4回はモスクワで演奏する。好きなピアニストの演奏がたびたび聴けるのは、とても嬉しい。
もっとも、コンサート前後には「ああっ、もうすぐコンサートなのに翻訳が終わらない!」と泣きそうになったり、帰宅後余韻に浸る間もなく作業を再開したりとバタバタすることも少なくなく、優雅なコンサート通いには程遠い。