ことばが劈(ひら)かれるとき
今朝のモスクワの気温は、零下24度。毎日、娘を学校まで「徒歩」で送り迎えしているのですが、今朝の寒さは格別でした。往復30分ほど外を歩いて帰ると、頭も体も凍ってしまったようで、解凍にしばらく時間がかかりました。
娘が現地校に通うようになって3年目。2006年4月にモスクワに引っ越してきた当初は、娘のロシア語能力は限りなくゼロに近かったし、現地校に入学した当時もロシア語があまりできなかったのですが、今ではネイティブのロシア語を話せるようになりました(私には判断できないけど、ロシア人パパのお墨付き)。
娘の学校ではスピーチ・セラピーを行っており、これに入学当初はずいぶん助けられました。6歳まで日本語オンリーで育った娘は、発音やアクセントに問題があったし、ことばがわからなかったり、ロシアの子どもなら誰もが知っているはずの歌やお話がわからなかったりして、周りに取り残されることが少なくなかったので、入学して2、3週間たった頃、パパがセラピストの呼び出しを受けました。相談の結果、処方箋みたいに対策が出されました。
その1.母親(私)は娘の前でロシア語使用禁止
娘のロシア語の発音やアクセントがおかしいのは、日本語の影響のため。正しいロシア語の発音を身につけるのが重要な時期に、ネイティブではない私が娘のそばでヘンなロシア語を話すと、娘がそれを真似する可能性があるので良くない、と。(おかげで、私はロシア語学習意欲を失いました・・・)
その2.一日二回、舌の体操を
8種類の舌の体操、各3〜5回が1セット。これを朝晩鏡の前でやるようにとのこと。それぞれの体操に名前があり、たとえば、「がんこなロバ」は、口を半開きにして、舌先を下の歯の裏側につけた状態で、イーイェーと発音する体操。私にはとてもできない型も・・・。
その3.ことわざや詩の暗唱
第一弾としてロシアの子どもなら誰でも知っていることわざや詩を集めた10ページ位のプリントが渡され、丸暗記せよとのこと。当時の娘にとっては、知らないことばのオンパレード。意味不明の音の羅列でしかなかった。パパがプリントを英訳し、それを私が日本語に訳したプリントを作成。パパは平日の夜は仕事から帰ってくるのが娘の就寝後で、一緒に発音練習ができなかったため、パパの朗読を録音し、娘は何度もそれを聞いて発音を真似て、朝パパにチェックしてもらうという形で練習を続けました。
その4.父親と一緒にロシア語を話す時間をふやす
平日できなかった分、パパが週末にがんばりました。
これを続けて最初の1ヶ月でロシア語が飛躍的に上達しました(パパ談)。子どもはことばの吸収が早いと言うけれど、楽に覚えたわけではなく、子どもなりにものすごく努力したからこそだと思っています。
当時、娘のロシア語の上達ぶりを感じたのは、パパに怒られたことに納得できなかった娘が、泣きながらロシア語でパパに抗議をしているのを見たとき。それまであまりロシア語を話さなかった娘が、しゃべる、しゃべる! あれには驚きました。ことばっていうのは、どうしても何かを伝えたいと思ったときに出てくるものなのだな〜と、昔読んで心に残った竹内敏晴さんの『ことばが劈(ひら)かれるとき』を思い出しながら、しみじみ思ったものです。