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芸術の秋を満喫のはずが・・・

さるるん@ロシア

通訳・翻訳者リレーブログ

私にとってモスクワでの最大の楽しみは、クラシック音楽(ピアノ中心)のコンサートに行くこと。9月は、新シーズン(2010−2011年)開幕の月。先週は、3回コンサートに行く機会があり、芸術の秋を満喫する心穏やかな一週間になるはずだったのですが・・・。

【コンサート その1】
ロシアにいるうちに一度は聴いてみなければと思っていたヴァレリー・ゲルギエフ指揮マリインスキー劇場管弦楽団のコンサート。
第1部 
シュトラウス:  メタモルフォーゼン
グバイドゥーリナ: バイオリン協奏曲第2番
(ソリスト: アンネ=ゾフィー・ムター)
第2部
シチェドリン:  バレエ音楽「せむしの仔馬」より
チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番
(ソリスト: デニス・マツーエフ)

初めて知ったソフィア・グバイドゥーリナはロシア(タタール共和国出身)の現代の作曲家。2006-2007年に作られたこの協奏曲のタイトルIn tempus praesensは「今このとき」ということ。時間が人間にどう関わっているのか、宗教や芸術にどう関わっているのかという問題意識があるらしい。ときは時々刻々と過ぎてゆき、人は「今このとき」を生きるのではなく、常に「過去」と「未来」をつなぐ通過点にいる。永遠に続く「今このとき」は、眠り、宗教的体験、芸術の中にしかない、という考えのもとに作られた曲らしい。

しかし、バイオリンの音がたびたび悲鳴のように軋み、全体的に緊張感が高く、聞いているのがつらい。それでなくても現実の世界は厳しいのだから、音楽を聴くときくらいはリラックスしたいのに・・・。曲が終わって私は解放された気分になったけれど、聴衆は拍手喝采。客席にいた作曲者グバイドゥーリナが紹介されると、スタンディングオベーションになった。もうすぐ80歳だけど、紺のパンツスーツ姿の彼女はそんな年齢には見えず、なかなか格好良かった。でも、聴衆は本当にあの音楽を素晴らしいと思ったのだろうか?

趣向の違う曲が盛りだくさんのプログラムで、チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番が始まる前にすでにお腹いっぱい。マツーエフはロシアでは大人気の若手ピアニストで、生で聞くのは2度目だったけれど、バリバリと轟音とどろく演奏はやはり私の好みではなかった。

【コンサート その2】
知人に招待されたミハイル・ヴォアスクレセンスキーのピアノリサイタルに。オール・ショパン・プログラム。バラード第4番が素晴らしかった。帰路、幸せな気分で地下鉄を待っていたのだが、降車客にぶつかられた拍子に手に持っていた文庫本がホームと列車の隙間から線路脇に落下。モスクワではホームに駅員などいないし、私には拾ってくれるよう頼むだけのロシア語力もないし、列車の走行には影響ないから、あきらめることにする。はるばる日本から海を越えて来た本だったのに・・・。あのストーリーの結末やいかに?

【コンサート その3】
大好きなピアニスト、ニコライ・ルガンスキーをソリストに迎えたショパンのピアノ協奏曲第1番、第2番のコンサート(シューマンの「序曲、スケルツォと終曲」も)。アレクサンドル・ヴェデルニコフ指揮、ロシア・フィルハーモニー交響楽団演奏。

やはりルガンスキーのピアノの音は美しい。ヴェデルニコフが指揮するオケとの息もぴったりで、そう言えば、2年前のラフマニノフのピアノ協奏曲全曲演奏もヴェデルニコフとだったと思い出しました。指揮者がルガンスキーに寄せる信頼、一緒に良い音楽を作る喜びが感じられました。

これだけならば芸術の秋らしい一週間だったのに・・・
9月24日の尖閣沖衝突事件の船長釈放のニュース。 あの日は、日本の対応に呆然とし、次に腹が立って、仕事に手がつきませんでした。 法に則って粛々と対応するって言っていたのに。首相、外相がニューヨークで米国の支持も取り付けたのに。これで筋を通せるだろうと思っていたのに。

日本が領土を守る気概のない国だと世界に知らしめたようなもの。北方領土問題の解決も、日露平和条約の締結もさらに遠くなりそう。

この件で書きたいことは山ほどあるけれど、冷静に書けそうにないので、今日はこのへんでやめておきます。

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記事を書いた人

さるるん@ロシア

米系銀行勤務後、米国留学中にロシア人の夫と結婚。一児の母。我が子には日露バイリンガルになってほしいというのが夫婦の願い。そのために日本とロシアを数年おきに行き来することに。現在、ロシア在住、金融・ビジネス分野を中心としたフリーランス翻訳者(英語)。

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