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さるるん@ロシア

通訳・翻訳者リレーブログ

このところ翻訳作業が遅々として進まず自己嫌悪気味だったところに、昨日のメドベージェフ大統領の北方領土訪問のニュースが入ってきて、気持ちがどんよりしております。ロシアの主要テレビ局のニュース番組では、今回の訪問で、大統領が、長年あたかも政府に見捨てられていたような南クリル諸島(ロシアでは北方領土をこう呼ぶ)の生活レベルを本土並みにするために投資を確約したことに重点を置き、「日本の抗議はunacceptable(ラブロフ外相がこれに相当するロシア語を連呼)」「クリル諸島はロシアの領土であって、大統領が国内のどこに行こうと日本からとやかく言われる筋合いはない」と報道されていました。

ケーブルTVの番組では、コメンテーターの解説が加わって言いたい放題になります。私が見たのはRussia Todayという英語放送なので、ロシア国民向けのチャンネルというわけではないのですが、印象に残ったコメントと私のリアクション(かなり恣意的)を書き出してみます。

まず、南クリル諸島は戦略的に重要だと解説。まず、この海域の石油・ガス埋蔵量が大量だと推定されること。もうひとつは、国防上の重要性(潜水艦がオホーツク海に出て行く基地になる)。さらに、海洋資源、鉱物資源も豊富。私の耳には、これをロシアが手放すなんてあり得ないと聞こえます。

司会者がコメンテーターに「なぜ日本はこんな強引な姿勢を取るのか。目的は資源か、国家の威信か。」と質問します。国家として領土保全は当たり前のこと。この質問には反発してしまう。

「日本は、隣国すべて(中国、韓国、ロシア)と領土に関する紛争を抱えている」云々というコメンテーターの発言には「日本はおかしいんじゃないか」というニュアンスが漂っている気がします。また、沖縄米軍基地問題や尖閣衝突事件で国民の批判を受けている現政権が、国民の支持を得るために強い外交姿勢を見せたがっているというような分析もありました。

昨年の世論調査では、ロシア国民の90%が領土返還に反対していたとも報道されました。「ヒトラーと同盟を結び、米国、英国、中国をはじめとするロシアの同盟国と戦った国である日本に、大戦の結果としてロシア領となった島をなぜ引き渡さなければならないのか、ロシア人にはまったく理解できない」という政治アナリストの発言が一番こたえました。ナチス・ドイツと日本の同一視は、一部のロシア人が好んで使うレトリックだと思います。これを言われると、山ほど反論したい気持ちと、日本人が戦後すべきこと(真の意味での反省)をしてこなかったことに対する忸怩たる思いとで、ぐちゃぐちゃになります。

それでも、ロシアが日本との関係を改善させたがっていることは事実。ロシアにとって最も重要な戦略的パートナーは中国ですが、同時に中国は脅威でもある。特に極東ロシアでは脅威です。(そんなこと報道では伝えていませんが)だから、日本との関係強化はロシアにとって保険材料になります。特に極東ロシアの開発で日本の協力を得たいと思っているのです。

こちらでの報道では、1956年の日ソ共同宣言への言及が多いです。同宣言は、平和条約を締結したら、歯舞・色丹をロシアが日本に返還するという内容。「ロシアはいつでも日ソ共同宣言に基づいて平和条約を結ぶ用意がある。これを(四島返還にこだわって)拒んでいるのは日本だ。」と言っています。まずは平和条約締結、歯舞・色丹の返還、それを国後・択捉に関する交渉は継続するという確約のもとに実現することはできないのかなあ?

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記事を書いた人

さるるん@ロシア

米系銀行勤務後、米国留学中にロシア人の夫と結婚。一児の母。我が子には日露バイリンガルになってほしいというのが夫婦の願い。そのために日本とロシアを数年おきに行き来することに。現在、ロシア在住、金融・ビジネス分野を中心としたフリーランス翻訳者(英語)。

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