幸せな時間
毎度クラシック音楽の話で申し訳ないと思いつつ、それでなくても終日机に向かって過ごしている在宅翻訳者の私の場合、寒い冬にはますます外出機会が減り、遠出すると言えば、ピアノのコンサートくらいなのです。
先日、ゴルノスタエワ一家のコンサートに行って、とても幸せな時間を過ごしてきたので、今回はそのレポートです。ヴェラ・ゴルノスタエワは、モスクワ音楽院ピアノ科を代表する教授の一人。前回のブログにも少し書きましたが、とても魅力的な方です。今回は、その娘でやはりモスクワ音楽院ピアノ科教授のクセニア・クノーレ、孫のリカ・クレーメル(女優)とルーカス・ゲニューシャス(ピアノ)の四人が登場したコンサートでした。
第1部のプログラムは、ベートーヴェンピアノ協奏曲第3番の2台ピアノバージョン。2010年のショパン国際コンクールで2位に入賞し、日本にもファンが多いルーカス君がピアノパートを、クノーレ教授がオーケストラのパートをピアノで演奏しました。この親子は、やはりピアノの音が醸し出す雰囲気が似ています。クノーレ教授の方がロマン全開といった感じかな。呼吸もぴったりで、聞いていてとても心地良かったです。2台のピアノバージョンも、このレベルになると協奏曲に勝るとも劣らぬ味わいで、大満足でした。
第2部のメインは、プーランクの「子象ババールのお話」。女優であるリカさんが朗読し、ルーカス君がピアノを演奏します。昼公演でこの企画が入っていたせいか、今回は親子連れ(幼児)が多かったです。小さい子もそれまでおとなしく音楽を聞いていたのですが、この朗読が始まったら、急にみんな生き生きし始めたのが何とも可愛かったです。リカさんの朗読は、プロの「お話のお姉さん」という感じだったし、ルーカス君も子ども達を喜ばせようという気持ちのあらわれか、顔の表情豊かに演奏していました(ほとんど顔芸)。
我が子がどんな反応をするのか見守るロシアの若い母親達のまなざしも優しくて、会場にあたたかい雰囲気が漂いました。私は幸せな空間にいるな〜と感じました。未来の巨匠ルーカス君のピアノを聞きながらお話を楽しむなんて、この子達は贅沢な経験をしているなとも思いました。
最前列中央で聞いていたゴルノスタエワ教授も感極まった様子で、立ち上がって二人に拍手を贈っていました。
プログラムの最後は、ルーカス親子による連弾。ストラヴィンスキーのマーチ、ワルツ、ギャロップ。ものすごく楽しそうに弾いていて、こちらもうれしくなってしまいました。
前にルーカス君がラジオ番組で、家族で過ごす別荘にはピアノが6台あったという話をしていましたが、こうやって小さい頃から家族で演奏を楽しんできたんだろうなと思いました。
最後に四人でステージに上がって、ゴルノスタエワ教授が挨拶。何かヘンなことでも言ったのか(私にはちんぷんかんぷん)、親子三人が笑い転げる姿が微笑ましかったです。なんとも愛のあふれた空間でした。
本当に幸せな時間を過ごせたので、それを是非伝えたいと思い、翌日感想とお礼のメッセージを送りました。そしたら、「気に入ってもらえてうれしいです。ありがとう!」という内容のお返事が届きました。SNSの発達でこんなやり取りもできる時代になったのかと感慨深かったです。