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翻訳コンニャク その2 (1月16日の続き)

かの

通訳・翻訳者リレーブログ

 悔しさをばねに私は黙々と英語の勉強を続けました。しかしいつまでたっても先生の話をノートにとれず、友人の早口会話にもついていけません。当時捕鯨をしていた日本への冷たい視線、そして‘Shame on you’という台詞を浴びせられたこと。小学生の私にとって、日本代表というのはかなり荷が重かったのは否めません。
 私なりの下積み時代とも言うべきか、鬱屈した時代に少しずつ明るい兆しが見え始めたのは1年半ぐらいたったころ。日本の長所をもっと級友にわかってもらわなくてはという思いに突き動かされ、色々と考え続けていました。それで思いついたのが日本文化の紹介。お花や茶道など私自身、やったことがなく、書道も小学校で転出してしまったのでできない。でも自分がよく知っていて好きなことなら紹介できます。それで思いついたのが日本作品の英訳でした。選んだのは・・・「ドラえもん」。というあたり、まだまだ小学生なのですが、当時ドラえもんは海外進出しておらず、日本アニメも外国にはなかった時代。でも子供心に「これなら万国共通だ!絶対ウケる!」と確信して訳すことにしたのです。そして選び出したのが「翻訳コンニャク」というエピソード。言葉の通じないのび太にドラえもんが翻訳コンニャクを出してあげると、あらフシギ、のび太はドイツ人と意思疎通できるようになった、という話です。
 これぞ文化の橋渡し!私もこれがあったら苦労しないのに・・・と色々思いながらこのエピソードを何とか英語に訳しました。コンニャクはうまく訳せず、結局konnyakuのままにしたように記憶しています。
 ところが肝心要の英訳お披露目はなく、この訳は「幻の訳」としてお蔵入りしてしまいました。チャンスを逸したからか、自分の訳に自信がなかったからかは覚えていません。むしろ「マンガ=低俗=友達に見下されるかも」という恐れの方が強かったのかもしれません。
 ハリーポッターの翻訳者、松岡佑子さんは原作を読んだとき、「これは絶対自分が翻訳する!」という強い使命感を抱いたそうです。私ももし信念を貫いていたら、今頃は「ドラえもん専属英訳者」になれていたかもしれないなあ・・・と密かに思っています。

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記事を書いた人

かの

幼少期を海外で過ごす。大学時代から通訳学校へ通い始め、海外留学を経て、フリーランス通訳デビュー。現在は放送通訳をメインに会議通訳・翻訳者として幅広い分野で活躍中。片付け大好きな2児の母。

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