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沈黙はコワイ

かの

通訳・翻訳者リレーブログ

 放送業界では10秒間の無音状態は「放送事故」とみなされる。では通訳者は沈黙が何秒続くと不安になるのだろう?
 私の場合、通訳内容の背景知識があり、話者の文脈も追えているときは自分の通訳が2〜3秒止まっても不安にならない。しかし内容も難しく、集中力が途切れてしまうとコンマ数秒でも非常に怖くなってしまう。しかもいったん訳が止まってしまうと永久に訳が出なくなるのではという不安に駆られるのだ。
 通訳者といえども人間なので、頭の中が一瞬真っ白になったり文脈を追えなくなったりすることはある。もちろん、それを避けるために日々勉強を積み重ねているのだが、やはり機械ではないのでミスは避けられない。
 その対策として、通訳者は「つなぎ」のフレーズを色々とストックしている。「しかしながら」「〜ということです」「〜ですけれども」などだ。「しかし」「〜です」「〜ですが」などより数文字長い分、時間が稼げるのである。たとえば‘President Bush said…’と始まり、文末までの文章が長い場合、‘said’をリテンションすることさえ辛いときがある。そんなときは「アメリカのブッシュ大統領ですけれども・・・」といったん切ってしまい、一通り訳し終えた後で「・・・と述べています」と持ってくる。これだけでも脳みその負担は軽くなる。ただし、こうしたフレーズは乱発すると聞き手にとって「間(ま)」が逆になくなってしまい、かえって聞きづらくなるの注意が必要だ。
 一方、私にとって別の意味でもっとコワイ沈黙がある。それは「子供たちの沈黙」。おしゃべり大好きな4歳と2歳のわが子がおとなしくしている時は要注意。「今日は静かだな〜、しめしめ」と思ってはイケナイ。そういうときに限ってティッシュペーパーが一枚残らず箱から取り出してあったり、本棚の本がすべて床に散乱していたりという事態になっているからだ。ある日の夕食後、居間が静かなので「二人おとなしく絵本でも読んでいるのだろう」と思った私は台所で食器を洗っていた。ところがあとで行ってみると畳や図書館から借りてきた絵本にクーピーペンシルの跡が!また別の日の入浴時。先に子供たちを脱がせて洗い場に立たせ、数秒の沈黙のあと私が行ってみると案の定、浴槽がシャンプーの泡だらけ。ここは西洋風呂じゃないのよー!!
 通訳の沈黙と子供たちの沈黙。こと通訳に関しては幅広い教養を身につけてどのような内容にも落ち着いて対処できるようにするしかない。一方、子供たちの場合、これも成長の一環。いずれ思春期になれば別の意味で「沈黙」してしまうだろうから、今はせめて温かく見守ることとしよう。

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記事を書いた人

かの

幼少期を海外で過ごす。大学時代から通訳学校へ通い始め、海外留学を経て、フリーランス通訳デビュー。現在は放送通訳をメインに会議通訳・翻訳者として幅広い分野で活躍中。片付け大好きな2児の母。

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