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「もがくのも命」

かの

通訳・翻訳者リレーブログ

 もうすぐ年度末。一般企業の社員は仕事が加速度的に忙しいころだと思う。フリーで仕事をしていると自分で仕事量を調節できるのは事実だが、「一度断るともう来なくなるのでは?」という潜在的不安があるので、時間的にバッティングしなければ可能な限り受けているのが実情だ。
 先週のブログにも書いたが、2月は本当にあわただしく、しかも下旬から3月中旬にかけてはイレギュラーなことが重なった。まず2月下旬。子どもたちが相次いで風邪に見舞われ、登園不可。そこで日中は近所に住む義父母に預けていたのだが、子どもたちの回復をもって今度は義父母がダウン。それで実家の母に片道90分かけて看病しに来てもらうという綱渡り状態が続いた。この時期の私は連日、会議通訳や授業、泊りがけの会議などがあり、家にいる時間が圧倒的に少なかった。
 そして3月上旬は法事。こちらは数ヶ月前からわかっていたことなので、滞りなく済んだ。ところがその直後、尊敬していた義理の伯父が病気で亡くなり、これにはかなりこたえた。私たち夫婦の媒酌人も務めてくださった伯父は幅広い教養の持ち主で、とても温厚なお人柄だったことから、私は伯父と話すのが好きだった。1月に親戚の集まりがあった際、私があるところに寄稿した文章を見せたところ「かのさんらしいね」と褒めてくださった言葉が忘れられない。もっともっと沢山色々なことを教えていただきたかっただけに残念でならない。
 こうして仕事やプライベートでめまぐるしい毎日が続き、どうやら疲れがたまっていたのだろう。私の中で大きな「バクハツ音」が生じた。このままでは疲れとストレスで倒れてしまう。そこで今、自分にとって何が大変なのか日記に書き連ねてみると、出るわ出るわ。細かいことまで書き出したら11項目も出てきた。私の場合、疲れてくると物事の基準が自分ではなく、「他人と比べていかに自分が劣っているか」となり、自分いじめを始めてしまう。たとえば公園で遊ぶ親子を見てほほえましく思うのではなく、「私は自分の子どもたちとまともに遊んでいるだろうか」となる。あるいは通訳養成所の生徒さんに「シャドウィングは毎日やったほうが良い」と言っておきながら、まともに新聞すら読めていない自分に気づく、という具合だ。こうして自分いじめが加速し、苦しみ、どんどん落ち込んでいくという悪循環になるのである。
 そのような中、たまたまNHKラジオ第一放送で耳にした作家・玄侑宗久氏の言葉は心に響いた。「『苦しい(くるしい)』『辛い(つらい)』といった言葉も、読み方を変えれば『にがい』『からい』となり、料理ではおいしいもの」なのだと。確かにそれは言える。人生上のどのような試練も、過ぎてみれば必ず自分の血となり肉となっているはずだ。引き続いて玄侑氏は「苦痛とは頭の中で作ったもの。そのまんまにして(心の中であれこれ)加工しないこと」「もがくのも命」「ときめいていると免疫力は高い」とも述べていた。
 体力が弱ると物事への感受性も鈍ってきて、余計悲観的な見方をしてしまう。しかし心身ともに元気でときめいていれば、多少の困難への免疫力も高くなるはずだ。そう考えると、やはり大事なのは月並みだけれど、睡眠・栄養・適度な運動、ということになるのだろう。

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記事を書いた人

かの

幼少期を海外で過ごす。大学時代から通訳学校へ通い始め、海外留学を経て、フリーランス通訳デビュー。現在は放送通訳をメインに会議通訳・翻訳者として幅広い分野で活躍中。片付け大好きな2児の母。

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