気分転換について
最近はクライアントも不況のあおりを受けてか通訳予算が思うように取れないところもあるようだ。逐次通訳の場合、以前なら必ず2名以上の通訳者が投入された。しかし最近は「半日を一名体制で」「明日、フルデーで。資料なしです」などという問い合わせの電話がエージェントからかかってくるケースが少なくない。こうしたハードな業務にどう対応していけば良いのだろうか?
まず大事なのは専門知識の構築。「私は○○分野が専門」と胸を張って言えるような得意レパートリーがあればベスト。でも日々の仕事が忙しい中、特定分野を掘り下げて勉強できる時間的余裕が通訳者にはないのが実情だ。そうなると、せめて毎回の業務の予習はもちろんのこと、当日わからなかった点はその日のうちに調べて復習しておくのが上達の秘訣だと思う。通訳学校の生徒さんから「留学した方が良いですか?」とよく聞かれるが、それについては「時間的・金銭的余裕があるのならぜひ通訳以外の分野をじっくり勉強してきてほしい」と答えるようにしている。留学という限られた勉学期間をフルに活用し、専門分野を徹底的に学び、論文が書けるぐらい掘り下げて学んでほしいからだ。そうして体得した知識、そして少ない時間の中で大量の文献を読みこなしたり文章を書いたりする訓練は、プロデビューしてからではなかなかできない。
それではハードな業務当日、脳がパンクしそうになったり集中力が途切れたりしたときはどうすべきか?おそらく気分転換については通訳者それぞれ工夫していることと思う。本番中はせいぜい小休止や昼食時間にしか休憩を取れないが、私の場合はそうした時間を目いっぱい使うようにしている。
まず一つ目として沢山歩くこと。昼食時間が一時間なら手短に食事を済ませ、あとはひたすら歩く。会議通訳のように座り通しでは体がなまり、血液の流れが悪くなってくるからだ。スーツを着ているのでジョギングはさすがに出来ないが、おなかに力をいれて上体を引き上げ、颯爽と歩くように心がけるだけで随分気分が晴れる。こうして歩いておけば満腹で午後眠気と戦うこともない。
小休止の際は化粧室で肩の上下運動をし、肩こりにならないよう努めている。ずっと机に座ってメモとりをしていると知らず知らずのうちに肩がガチガチになっているからだ。もうひとつ効果的なのはお気に入りのCDを聞くこと。できれば元気になれる曲が良い。私の現在のお気に入りはデンマークのパーカッションバンドSafri Duo。スポーツクラブのレッスンで流れていた曲で、これを聞くと「よし、また頑張ろう!」と思える。こうして目の前のハードな業務にも積極的に取り組もうと思えてくるのである。
ハードな一日が終わったら、早めにオン・オフを切り替える。反省点については帰りの電車の中でおさらい。あとは車窓の景色を眺めたり、好きな本を読んだり。酷使した左脳を休ませ、右脳で「わあ、桜がきれい!」「夕焼けきれい!」と感動していくと緊張もほぐれていく。
せめて帰りの車内では通訳や勉強とはかけ離れたことをしようと思っている。