生まれて初めて仕事をキャンセルしてしまった。
　先週月曜日の夕方。「何となくだるいな」と思ったのも束の間、あれよあれよという間に具合が悪化し、夜から激しい胃けいれんに見舞われてしまったのである。今までも数年に一回、体力が低下すると胃けいれんになっていたが、たいてい一晩寝れば何とか回復できた。ところが今回は火曜日になっても治らず、水曜日も丸一日ダウン。合計二日間、床に伏せていた。生まれて初めて仕事をキャンセルした次第。
　確かに日本に4年前に帰国して以来、仕事と家庭とでひたすら走りまわっていたし、オフのときはオフで全力投球。結局は自分の体力をどんどん追い込んでいたのだ。「体調管理も通訳料のうち」などと思いながら、丸々二日も空けてしまった今回はかなりこたえたが、これも「休養せよ」という天の声（？）だったのだろう。
　普段は風邪を引いても食欲だけは旺盛な私だが、今回ばかりは二日間、飲み物も食べ物も一切口にできなかった。胃けいれんというのは胃袋をわしづかみにされてねじられるような、そんな痛みである。とにかく痛いので、ダンゴ虫のように丸まって寝るしかなかった。おかげであんなに頑張っても落ちなかった体重が今回の必然的絶食状態であっという間に２キロも減量。きつかったスカートもあっさりはけて嬉しい反面、「これは気をつけないとリバウンドするぞ〜」と今からヒヤヒヤしているところだ。
　「絶食すると嗅覚と聴覚が冴えてくる」とよく言われるが、今回の私もそうだった。水曜日、フラフラする中、自分で車を運転して病院へ行ったのだが、車に乗り込んだとたん「うっ！車のにおいが強烈！」と思ってしまったのである。普段はまったく気にならないにおいもものすごく鼻についてしまう。エンジン音もまるでディーゼル車を運転しているような感じ。病院からの帰路、なぜか直感的に「カステラだけは食べられそう！」と48時間ぶりの食事をするべく、コンビニでカステラを買うことにしたのだが、そのときも店内のお兄さんの整髪料のにおいであっさり気分が悪くなってしまった。そういえばつわりの時もこんな感じだったなあと思い出す。
　普段はワーワー兄妹ゲンカの子供たちも、今回ばかりは「おかあさん、お熱？ダイジョウブ？」と小さな手を額に当ててくれた。二日間も寝てばかりの母に驚いてしまったのだろう、とても良い子で頑張ってくれていた。子供たちも成長したなあと感慨深く思った。
　・・・が、母が回復するや、待ってましたとばかりにケンカも復活。「おか〜さ〜ん、あれやって〜」「これ取って〜」もしっかり戻ってきたのでした！