現場人間でないとわからない「専門用語」
通訳の仕事では事前に資料を渡されることが多い。しかし専門用語や業界特有の用語があり、内容そのものを理解できないケースが少なくないのだ。つまり通訳者にとっては予習段階から「???」状態なのである。ネットでいくら調べてもわからないとなると、とりあえず資料に印をつけて当日の短い打ち合わせ時間で用語を確認するしかない。日本人スピーカーで多少英語のわかる方だと「あ、これは英訳すると○○ですね」と教えてくださる。ところがスピーカーが外国人の場合、基本コンセプトから説明してくださるので、ありがたい反面、打ち合わせ時間がどんどん減ってしまう。このため場合によってはご本人ではなく日本人の業界専門家に伺うほうが訳語を知る上では手っ取り早いこともあるのだ。
用語というのは業界外の人にとって非常にわかりにくい。逆に業界の中に入ってしまえば「な〜んだ」程度の事だったりする。たとえば通訳者であれば同時通訳と逐次通訳の違いは明らかだし、放送通訳業界ならば生同通(なまどうつう)・半生同通(はんなまどうつう)の区別もしっくりくる。オペラ業界だとコレペティートルやゲネプロなどはなじみがあるだろう。こうした業界用語を素人にわかりやすくしていくことは、その道の専門家の課題とも言える。
私の場合、子どもが生まれて初めて子ども関連用語がわかるようになった。息子は英国生まれで1歳の時に帰国、日本の保育園に入った。ところが「入園のしおり」を読んでもさっぱりわからなかったのだ。理由は「今まで目にしたことのない子ども関連用語」がたくさんあったから。たとえば通園に必要なものとして「おしりナップ、おねしょシーツ、スタイ、トリオセット」などが書かれていた。でも私にとってはどれもチンプンカンプン。そのものズバリの商品名でもない。先生に伺ったら要は「おしぼりウェッティのような赤ちゃんのおしりふき」「防水シーツ」「よだれかけ」「スプーン・フォーク・お箸セット」のことだとか。他にも同年代の児童のことを「お友達」と呼んだり、工作のことを「お制作」と言ったりする。全く交友関係のない友人であっても公園で小さい子どもを見かけたら「あ、お友達が来ているね」という具合に使うのだ。
ところで私がずっと凝っているのはスポーツクラブの各種レッスン。振り付け名称に「スーパーマン」(片手を上げて横移動)、「グレープバイン」(横移動中に足をクロス)、「クリーン&プレス」(バーベルを肩から上に持ち上げて下す)、「ボックスステップ」(四角になるようなステップ方法)などたくさん出てくる。好きな種目なのですぐわかるし説明もできる。スポーツクラブ関連の通訳なら喜んでやるのだけど・・・。