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ありがた迷惑な予知能力

かの

通訳・翻訳者リレーブログ

 通訳をしていて大事なのは予知能力だ。業務当日の前はあらゆるシナリオを想定して準備をする。たとえば事前に資料をもらっていたら、それを読み込むのはもちろん、スピーカーの著作があればやはり目を通したいし、別の学会の発表資料がネットに掲載されていれば、そちらもできれば見ておきたい。そうすることで、スピーカーの考えをより明確にとらえられ、通訳業務当日にもスピーカーが次に何を述べるか、予知できるからだ。通訳者の仕事は当日の通訳そのものよりも、こうした徹底的な予習に大半を費やしていると言ってもよい。予知能力が事前に構築できていればいるほど、当日の負担は軽くなるということになる。
 ところがこの予知能力、日常生活で応用しすぎるとかえって疲れてしまう。私の場合、それが顕著に現れるのが子育てのとき。こちらは「次に何が出るか?」を常に考える仕事をしているものだから、子どもたちの行動を見ているとついつい注意したくなってしまう。まるでうるさい小姑のような感じ。「あ、ジュースがこぼれる!」「ほら、お箸が落ちるよ!」「それでうがいしたら、服が濡れる!」などなど。次に起こりうるシナリオを常に頭にイメージしてしまうので、口も出てしまうし、そのたびに心臓にも悪い。子育てでは大らかになりたいのに、哀しいかな、予知能力で一人消耗しているのである。
 仕事で良しとされる予知能力。でも普段の生活に持ち込んでしまうとかえって逆効果かもしれない。完璧をめざすのではなく、「8割できればOK」のスタンスでゆったりと子育てをしていきたいものだ。 

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かの

幼少期を海外で過ごす。大学時代から通訳学校へ通い始め、海外留学を経て、フリーランス通訳デビュー。現在は放送通訳をメインに会議通訳・翻訳者として幅広い分野で活躍中。片付け大好きな2児の母。

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