たたみ半畳分のきっかけ
5歳の息子は目下、工作に夢中だ。新幹線、はたらく車、恐竜を経てたどり着いたここ最近のマイブームである。空き箱などはずっとためてあるので、本人なりに工夫して色々なものを作っている。
きっかけはひょんなことだった。以前からスーパーの入り口にある「ガチャガチャ」(お金を入れるとカプセル入り玩具が出てくる機械)を息子はやりたがっていた。ある土曜日、スーパーへ一緒に出かけようとしていた矢先のこと。何度もお約束を破ってなかなか反省しなかったので、とうとう私が「言われたことを守れるまでガチャガチャ禁止令」を発動したのだ。もっとも母親のホンネとしては「こういうタイプの玩具はすぐ壊れるのがオチ。これ以上おもちゃが増えるのもなあ」である。
楽しみにしていたガチャガチャが入手できないと知った息子は泣いて抗議した。お約束を破ったことなど棚に上げて、どれだけガチャガチャをやりたかったか訴えた。そこで私は言ったのだ。「自分で作ってみたら?」と。
その足で図書館へ連れて行き、工作に関する本を借りてきた。5歳でも読めるふりがなつき。幸い、押入れケースには空き箱からプチプチシート、トイレットペーパーの芯や布切れなどが入っている。こんなこともあろうかとためておいたのだ。
しばらくすると息子は牛乳パックとペットボトルのふたで見事なゴミ収集車を完成させた。「おかあさん、見て見て!できたよ!」と嬉しそうな顔。たかがガチャガチャを厳しく禁ずることもなかったかなと内心私はモヤモヤしていたのだが、自分で工夫して作り上げるという工程を体感できた息子が、また一歩成長したようにも見えた。
空き箱の入っている押入れケースは畳わずか半畳分の空間を占めているに過ぎない。しかし、要はきっかけをどう作ってあげるかなのだろうなと思った。現在私は通訳学校でも教えているが、講師の私が受講生にできることは、通訳という仕事にいかに興味を持ってもらえるか、そのきっかけ作りだと思う。勉強するのは最終的に自分自身だからだ。
とは言え、上に立つ者ほど効果的なきっかけ作りを考える必要があると思う。たとえそれがたたみ半畳分ほどわずかなものであっても。