店内アナウンスにみるリーダーの条件
成功するお店の条件とは何だろうか?
商品価格が手ごろで、交通の便が良いこと。我が家のように子ども連れの場合、駐車場の有無も大事だ。しかしこうした点だけで営業がうまくいくとは限らないと思う。やはりトップに立つリーダーの姿勢も大いに左右するのではないだろうか。
我が家の近くには大型ディスカウントスーパーがある。2年ほど前に大改装してとても利用しやすくなった。以前はエレベーターもなく、通路も狭く、ベビーカーで買い物などとてもできなかったのである。限られたフロアスペースなのに商品があふれかえっていて、何だかゴミゴミしたイメージ。いかにも安さだけが売り物のような、そんな店舗だった。
しかし数ヶ月にわたる大改装を経て、格段に良くなった。同じ敷地面積なのにここまで買い物しやすくなるのかと驚いたほど。駐車場は増えたし、エレベーターも設置された。品揃えは豊富だし店員さんも多く、商品の場所を尋ねやすい。通路も広くなり、ベビーカーはもちろん、備え付けの大型無料カートで移動しやすくなった。
中でも特筆すべきは店長さんと思しき初老の男性社員。小柄で特に目立つわけでもなく、おとなしそうなイメージなのだが、店内アナウンスが抜群なのだ。普通、買い物客はわざわざ店内アナウンスをじっくり聞くようなことはしないと思う。しかしこの店長さんに関しては、「聞かせるアナウンス」なのである。
まず、声が大きくてメリハリがあること。どのような職業でもハッキリ話すのは大事だろう。特にスーパーのようにお客さんの出入りが多い場所では、声のトーンひとつで活気があるかないかがわかる。
次に身近な話題から入ること。通常、スーパーのアナウンスといえば「いらっしゃいませ!いらっしゃいませ!本日は○○とXXが超お買い得!いらっしゃいませ!いらっしゃいませ!」とがなり立てて連呼するところだろう。しかしこの店長さんは違う。たとえばある日はこんなアナウンスだった。
「いらっしゃいませ、いらっしゃいませ。本日もお暑い中○○スーパーへお越しくださいまして、誠にありがとうございます。今日も暑いですねえ。今朝のテレビニュースによると、今日の最高気温は27度!何でも地球温暖化により、例年より早い真夏日だそうです。さて、暑さの中、必需品といえば『すだれ』。1本○○円で1階入り口正面の特設コーナーに置いております。2本3本とまとめ買いの方もいらっしゃいますねえ。暑さがさらに厳しくなる前に、どうぞお求めください。いらっしゃいませ、いらっしゃいませ〜!」
という具合。桜の季節には「花散らし」などという言葉を使ったり、テレビなどで仕入れた知識を盛り込んだりするあたり、名スピーチ!私などいつも惚れ惚れして聞いてしまうのだ。ちなみにこの店長さん、チラシを見ながら格安商品を紹介するのではない。ダンボールの切れ端を持って店内を回り、自分で商品を見て価格を書き込み、そのダンボール・メモだけで即興アナウンスをやっているのである。
もうひとつ。この店長さんはアナウンスをしていないときは店内や外でカートを集めたり、商品のチェックをしたりしている。上に立つ人がこうして現場でせっせと働いているためか、他の店員さんやパートの人たちも実にこまめに働く。トリンプの吉越浩一郎社長は現場に出ることの大切さを著書の中で述べているが、これは何も一部上場企業に限ったことではない。どんなに小さな会社でも、あるいはお店でも、上に立つ者はできる限り現場を知らなければいけないのだ。
私はこのスーパーへ来るたびに、良い組織の条件を肌で感じている。ビジネススクールなどへ行かなくても、身近なところにロールモデルはあるはず。私自身、家庭における自分のあり方や、仕事場における行動規範など、この店長さんから教えられているような気がする。