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お人柄で買う

かの

通訳・翻訳者リレーブログ

 わが家の近くにシフォンケーキ店ができた。
 開店を知ったのは地元ミニコミ誌。いつか行きたいなと記事を切り抜きつつ、自分でケーキは作れるのでわざわざ出かけるまでもないかなと思い、しばらく行かないでいた。地図によればお店はバイパスから少し入ったところ。このあたりは多少ゴミゴミしていて道も狭く、普段私自身敬遠している場所だ。そうしたアクセス条件もあってなかなか出向こうとは思わなかった。
 しかしある日のこと、図書館の帰りに息子と立ち寄ってみた。
 時間はすでに閉店間際。狭い路地を何度も間違えながらようやく看板を見つけ、駐車場に車を止める。お店自体はできたばかりで真新しい。ウッドデッキもあり、プランターにハーブが咲いていた。
 一歩店内に入ると、オーナーと思しきおばさまがにこやかに迎えてくれた。小さな店舗だが、センスの良いシンプルなインテリアで飾られ、ガラスケースの中にはおいしそうなシフォンケーキが並んでいた。家族4人分を買って帰る。
 味は予想以上だった。一口食べるとシフォンのフワフワ感が広がる。甘すぎずお腹にもたれず、ホッと幸せな気分になった。よし、今度はそこでランチを食べてみようと思った。
 そして翌週。子どもたち二人を連れてお店へ。おばさまは私たちのことを覚えていた。その日は梅雨の合間で気持ちの良い晴天。息子はウッドデッキで、一方娘は店内で食べたいという。「じゃあ、じゃんけんで買ったほうが食べる場所を決めようね」と私が言うと、おばさまいわく、デザートは外でもOKだが食事は店内でとのこと。がっかりする息子に「ごめんなさいね。ケーキはテラスでも良いんだけど、お食事は中で召し上がってくださる?」と話しかけていた。
 ぐずるかなあと私は内心冷や冷やしたが、息子は「うん、いいよ!」と元気に返事。何でもあとで息子に聞くと、おばさまがとても優しく説明してくれたので、「ちょっと残念だったけれど、いいよって思ったんだ」とのこと。
 食事もおいしく雰囲気もよく、他の店員さんたちも気持ちよくサービスしてくれたのが印象的だった。テーブルが小さかったので、あえて一気に運ばずに少し時差をつけて持ってきてくれたり、私一人で二人の幼児を食べさせているのを気遣ってか、おいしいハーブティーをサービスしてくれたり。オーナーのおばさまのお人柄が働く店員さんたちにもしっかりと通じていた。
 聞けばシフォンケーキは息子さんが作っているという。親子二代で始めた新しいケーキ店。息子さんもきっと優しい方なのだろう。この人たちだからこそ、ぜひ地元ファンとして買い続けたいと思う。
 通訳業もきっと同じはず。たとえ完璧な訳ができても、人柄があらわれていなければまた頼みたいとは思われないだろう。6月20日付「工藤浩美のビシッと愛のムチ」で工藤社長が通訳現場での対応について述べていらしたが、最終的に人柄がサービス購入へつながると私は思っている。

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記事を書いた人

かの

幼少期を海外で過ごす。大学時代から通訳学校へ通い始め、海外留学を経て、フリーランス通訳デビュー。現在は放送通訳をメインに会議通訳・翻訳者として幅広い分野で活躍中。片付け大好きな2児の母。

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