最近のお気に入りフレーズ
本を読んでいて気に入ったフレーズは日記に書きとめるようにしている。
私の場合、本は読んだあと、一定期間はとっておくのだが、本棚がすぐいっぱいになってしまう。それでよほど何度も読み返したいと思う本でない限り、たいていは処分している。今までの読書ノートを読み返すと、その時その時の心境が引用文に反映されていて面白い。
さて、最近読んだ本で心に残ったのは2冊。
一冊目は佐藤初女著「おむすびの祈り」(集英社文庫、2005年)。
これは私の友人が薦めてくれたもの。彼女は一緒に国際交流事業に参加した仲間で、出会いは10年以上も前にさかのぼる。その後彼女は東京の大学を出て生まれ故郷に戻り、今は3児の母だ。なかなか会うことはできないが、手紙でお互いの近況を報告しあっている。彼女は手紙に日々のことや子育て、読んだ本などを書いてきてくれて、私自身、大いに刺激を受けている。
その彼女が佐藤氏の講演会に出席し、とても良かったとのことだったので、私も早速本を手に入れてみた。
佐藤氏は青森で「森のイスキア」という施設を運営している。森のイスキアは、心の病を抱えていたり、辛い気持ちを抱いたりする人を受け入れる場所で、佐藤氏は手料理でそうした人々を心から歓迎している。カウンセリングや助言を行うことは一切せず、地元で取れた食材で料理を作り、相手の話を聞くというもの。彼女の手料理、特におむすびを食べた人たちは食を通じて命の喜びにめざめ、再び前向きになっていくという。
著書の中で佐藤氏が繰り返し述べていたのは、目の前の事柄に誠意をもって臨むということであった。
これはあたりまえのようなことでいて、なかなか実践できない。たとえば私の場合、子どもたちの話を聞きつつも、頭の中では「明日の仕事の準備、まだだったなあ」と思うこともしばしば。あるいは朝、ゴキゲンでめざめた子どもたちはとにかくおしゃべりしたくてたまらない。なのに私は心の中で「お弁当作って、朝食準備して、洗濯の後は身支度して」と段取りを考えていたり。先読みしているがゆえに、目の前のことがおろそかになってしまうのである。
この本をきっかけに、とにかく今、自分の置かれた状況にきちんと取り組もうと思うようになり、日々実践に向けて努力しているところだ。
もう一冊、心に残ったのは宮崎隆男著「マエストロ、時間です」(ヤマハ、2001年)。著者はサントリーホール初代ステージマネージャー。歴代の音楽家たちとのエピソードや、サントリーホール開館に至るまでの話など、音楽ファンにとって実に楽しめる本だった。
その中に、ステージマネージャーの仕事とは「大きい問題も小さく見せること」とあった。つまり、何か大ごとになりそうな困難な問題も、なるべく小さく見せることによって、出演者の心理的負担を軽減するのもステマネの仕事なのだそうだ。
これも私自身、仕事や普段の生活に応用したいと思っている。たとえば通訳現場で機材の調子がおかしくなったり、資料に不備があったりということはよくある。そのようなときもパニックしないことが肝心だ。騒いだところで自分の通訳能力が向上することは一切ないのだから、平常心を保ったほうが心臓にも良い。
また、子育てにもこれは使える。先日も息子が牛乳を大量にこぼしてしまったのだが、そのときも「あ、こぼれちゃったねえ。大丈夫、はい、台ふきんで拭いてね」と言ったら、パニックしかけた息子も落ち着いた。以前の私なら「もう〜、何でこぼすのよ〜!!」と怒りスイッチオンになってしまい、ボルテージが上がっていた。そうなると子どももますます焦って大泣きして、泣き止まない子どもにさらに私がイラつく・・・というのがお決まりのパターンであった。
目の前のことに集中し、大きな問題も小さく見せること。これが目下、私のお気に入りフレーズだ。