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格差社会マーケティング

かの

通訳・翻訳者リレーブログ

 最近はどの雑誌をみても「格差、格差」。新聞にも毎日この言葉が出る。でも果たして本当に今の日本で格差があるのか?私はそうは思わない。
 まず、放送通訳という職業柄、世界のニュースに日々接していると、真の格差というのはもっとむごい。たとえばイラク戦争。今、イラクで自爆テロや宗派間抗争の巻き添えになっているのは、海外に脱出できなかった一般市民だ。お金のある人たちは当の昔に国外へ避難している。国の再建もままならない中、貧困層だけ取り残されているのだ。日本において、海外へ出かける貯蓄もないほど生活が困窮している人がいるか考えてみれば、いまの日本でいう「格差」が大げさであることがわかる。
 あるいはダルフール問題。アフリカのスーダンで起きている民族浄化事件だ。自分たちの生きる権利すら脅かされている人たち。少なくとも日本では、他民族が日本人に脅威を与えることはない。日々、恐怖の中で正当な暮らしすら否定されている人たちが世界にはいる。そう考えると、子どもに私立中受験をさせようか、育児休暇はどうしようかという議論も、恵まれた悩みだと思う。
 以前住んでいたイギリスでは、医療費こそ国民皆保険で無料だったが、歯の治療だけは実費だった。民間保険に入れば治療費は還付されるが、保険料はけっして安くない。あるいはアメリカの場合、そもそも医療費は国が負担せず、よい治療を受けようとなると莫大な費用がかかる。おちおち病気にもなれないのだ。日本は会社員なら企業内保険があり、自営業でも国民健康保険でカバーされる。誰もが病院で治療を受ける権利があるのだ。
 こうして考えると、格差という言葉も、単に国民の不安をあおり、それを機に何かをさせようという資本主義の思惑のような気がする。名づけて「格差社会マーケティング」。ここまで格差という単語が目につけば、つい消費者もその記事を読んでしまうだろう。今は格差社会だから何かしなければという考え。これは「世の中は国際社会。共通語は英語。だからこそせめて英語ぐらいは話せなくては」という英語マーケティングに通じると私には思えてしまう。
 世界にはさまざまな境遇の人がいる。放送通訳でそうしたニュースを訳していると、今の格差社会ブームには踊らされないぞと改めて思う。

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記事を書いた人

かの

幼少期を海外で過ごす。大学時代から通訳学校へ通い始め、海外留学を経て、フリーランス通訳デビュー。現在は放送通訳をメインに会議通訳・翻訳者として幅広い分野で活躍中。片付け大好きな2児の母。

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