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やっぱりフリーランス

かの

通訳・翻訳者リレーブログ

 人事関連の通訳をやった。
 内容は退職金や賃金に関するもの。「確定拠出年金」やら「日本版401k」やら専門用語が飛び交うむずかしい会議ではあったが、なかなか興味深かった。
 というのも、会議の資料に社員の生涯賃金や退職金などのデータが書いてあったのだ。なるほど、大企業ではこうしてスタッフの将来の給与をきちんとシミュレーションしていて、それに基づく退職金や年金も今のうちから計算しているのだなと初めて知った。資料を見ながら、「へ〜、こうしてきちんと算定できるのなら、住宅ローンも組めるし、教育費や老後の備えも今からできるんだなあ」と思わず感心してしまったのである。
 一方の私はフリーランスなので、自分の生涯賃金に関しては完全にドンブリ勘定。自営業なので、もし明日に大地震があって仕事がなくなってしまったら、ペイはもちろんない。病気の際には有給の病気欠勤もないし、身内の不幸で急に仕事を休んでも、支払いはない。数ヶ月前からわかっている結婚式のときは、あらかじめ仕事を入れないようにするのだが、働かないので当然収入減になる。定年が決まっているわけではないから、退職金もない。老後の年金も自分で貯金しない限り、まったく存在しない。今仕事をする上で頼れるのは、自分の健康とこれまで培ってきた知識、そして今後も勉強を続けようという意欲だけである。
 では今のライフスタイルについてどう考えているかと言えば、大いに満足している。子どもたちがまだ小さいので、幼稚園の行事にも対応できるようスケジュールを組めるし、家で食事も一緒にとれる。日中にスポーツクラブへ行ってストレスを発散することも可能だ。通訳業務は内容が毎回異なるのでいつも猛勉強をしいられるが、その分、今まで知らなかったことにめぐり合える。だから知的好奇心を大いに満たせる。お金をいただきながら、勉強までさせてもらえる稀有な職業。それが通訳業なのだ。
 わが家では今のところ家を買うつもりもないし、子どもたちは公立へ行かせようと考えているので、ローンや教育費の心配もさほどしていない。高い塾に入れなくても図書館で何でも調べられる。だから勉強は工夫次第でいくらでもできると思っている。まあ、ここまでマスコミが公立校の質低下を書けば心配していないわけではない。けれど自力で試行錯誤して学んでいくのも立派な人生勉強。だから子どもたちにもそれを身につけてほしいと思っている。
 会社勤め時代の私は、毎日満員電車に揺られ、社内の人間関係の複雑さを目の当たりにし、不景気であっという間に人事制度が変わるという状況を経験した。フリーとなった今、そうしたこととは無縁だ。その代わり、自分の名刺に書かれた「通訳業」という肩書きひとつですべて自己管理し、自己責任でこなさなければならない。でもここまで長くこの仕事が続いてきたことを考えると、やっぱりフリーランスが私には合っているのだなと思う。

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記事を書いた人

かの

幼少期を海外で過ごす。大学時代から通訳学校へ通い始め、海外留学を経て、フリーランス通訳デビュー。現在は放送通訳をメインに会議通訳・翻訳者として幅広い分野で活躍中。片付け大好きな2児の母。

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