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初試練

かの

通訳・翻訳者リレーブログ

 娘が幼稚園から絵を持って帰ってきた。
 この絵は夏休みの宿題だったもの。地元の生命保険会社が主催する絵画コンクールの一環で、提出された絵は幼稚園ごとに地元の会館で展示する、というものであった。夏の暑い中、娘はアニメの女の子を、年長の息子は恐竜の絵をせっせと描いていた。描き終わると二人は嬉々として私に絵の説明をしてくれたのである。あれから2か月がたつ。
 娘のクラスでは先週水曜日に絵が返却された。参加賞のタオルを持って娘は帰宅。ところが息子のクラスでは返却が遅れているらしく、この日は何も持って帰らなかった。そのせいか、息子は「いーなー、タオルもらっていいなあ」「今度貸してね」としきりに妹に話しかけている。娘は「いーよー」と応じつつ、「おかーさん、これにヒモ付けてね。給食用のタオルにするから」とすでに利用方法を考えている様子だ。帰路の車中、娘はタオル一本でかなり盛り上がっていた。
 一方、息子はなぜか元気がない。帰宅しても静かで、よく見ると口がへの字になっている。そして見る見るうちに目には涙が。どうしたのかと聞いてみると、絵も返却されず、タオルももらえず、しかもこの日、クラスでは別の女の子だけ賞状をもらっていたのだという。本人なりに一生懸命描いたのに賞状がなかったのが悲しいらしい。「ボクもほしかったの」と今にも涙がポロリと落ちそうだ。それで私は息子をギューしながらこう語りかけた。
 「そっかー、賞状ほしかったんだね」
 「うん」
 「お友達の賞状を見たら、悲しくなっちゃったんだね」
 「うん。」
 実はこの語りかけ、先日聞いた子育て講演会で学んだもの。子どもの立場に立って、子どもの意見を代弁してあげると本人は安心するという内容だった。育児書などでこのようなアプローチは知っていたものの、日々の生活に追われて余裕がなく、なかなか実践できないでいたのである。でもちょうど前日に聞いたレクチャーで出てきたのでやってみたところ、意外と息子は短時間でリカバー。「ボク、もっといっぱいおえかきの練習して、今度は富士山の絵を描くんだ!」とはりきっていた。
 今回は賞状をめぐり、息子は悲しさとくやしさを感じるという、いわば初めての試練を味わった。でもこれはとても良い経験になったと私は思っている。最近は運動会などでも順位をつけないとか。しかし子どもはこうした競争やくやしいという気持ちを通じて成長しているのだ。その気持ちをどうバネにして次につなげていくかが大事なのだと私は思う。

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記事を書いた人

かの

幼少期を海外で過ごす。大学時代から通訳学校へ通い始め、海外留学を経て、フリーランス通訳デビュー。現在は放送通訳をメインに会議通訳・翻訳者として幅広い分野で活躍中。片付け大好きな2児の母。

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