"Seize the day!"とキーティング先生はおっしゃった
皆さんは、ランディ・パウシュ(Randy Paush)先生をご存知でしょうか。あちこちで取り上げられ始めているので、ご存知の方もいらっしゃるかもしれません。私はというと、今週の火曜日の早朝、ある英語教育メーリングリストの特別配信で初めて知りました。
パウシュ先生は、アメリカにあるカーネギー・メロン大学の教授で、バーチャルリアリティーの権威です。研究者としても教師としても、そしてよき夫、よき父親としても順風満帆の人生を歩んでいたときに、ガンを宣告されました。外科手術をはじめ、実験段階にある化学療法まで試しましたがガンは広がり、ついに2007年8月、元気でいられるのは、あと3ヶ月から半年と告げられたのです。
それから1ヵ月後の2007年9月18日、先生は「最後の授業」と題した講演を行ないます。もともと「これが人生最後の講義だとしたら、どんなことを話すか」という前提で行なう講演は、割合よくあるようですが、パウシュ先生の場合は、ものの例えではなく、ひょっとしたら本当に最後になるかもしれない講演になってしまったのでした。
そうは言っても、Youtubeにアップされている講演の動画をみると、そこには悲壮感も暗さも、またはその裏返しのやけくその明るさもありません。人間同士のかかわりを純粋に楽しみ、それをとことんまで味わいつくそうとしている一人の男性が、ユーモアたっぷりに、会場を何度も爆笑の渦に巻き込みながら、全身全霊で会場の人々とコミュニケートしているのです。
「ガンの話も、家族の話も、宗教的な話もしないよ」と笑顔で語ったパウシュ先生は、自分の子供の頃の夢は何だったか、それをどう実現したか、そして今度は他人の夢の実現を手助けすることに、どう情熱を注いできたかを語ります。講演の最後に、先生をそこまで突き動かしていた理由が明らかにされますが、これには泣けました。私も完全に"head-fake"にかかっていました。
非常に上手な日本語字幕がついた動画が、Youtubeにアップされています。皆さんもぜひご覧になって下さい。生半可な映画などより、よほど見ごたえがあります。ましてや「ああ、疲れたな。バラエティーでも見て寝るか」と思われている方は、こちらをご覧になった方が、よほど「明日へのエネルギー」をチャージできることは請合います。
動画は全部で9本あり、全て見ると1時間15分ぐらいでしょうか。長い、と思われた方は、ぜひ1本目をご覧になってください。気がついたら全ての動画を見終わって、PCの前で小さく拍手をしているはずです。
http://www.youtube.com/watch?v=nrFMRuB2lbA
リンクが切れているようでしたら、Youtubeで「最後の授業」で検索すると、すぐに出てきます。
さて、この講演から8ヶ月もたった5月18日、パウシュ先生はカーネギーメロン大学の卒業式に出席し、卒業生に贈るスピーチをしました。さすがに8ヶ月前よりはやつれられた感はありますが、ユーモアたっぷりなのはそのままで、その一方で心に響く言葉をつむぎ出していらっしゃいます。卒業生たちは恐らく、泣き笑いの表情で耳を傾けていたのではないでしょうか。こちらも素晴らしいスピーチです。ぜひご覧になって下さい。
http://www.youtube.com/watch?v=ATiyfX1I45I
「あと3ヶ月と宣告されてから9ヶ月経ったと言うと、『じゃあ、死神に勝ったんですね』といわれることがあるんです。そう言われると反射的に言ってしまうんですよ、『長く生きることが、死神に勝つってことじゃないんです。いかに充実して生きるかなんですよ』って。死神は、誰の元にもいずれ訪れます。死神が来てからじゃ、何をしようにも遅い。この世に生れ落ちてから、死神が来るまで、いかに過ごすかが大事なんです」
記憶に頼って書いているので、多少話が前後しているかもしれませんが、パウシュ先生はこう語っていました。そして「情熱を傾けるものを見つけるんです。もう見つけている人もいるかもしれないし、中年になってからようやく見つかる人もいるかもしれない。でも少なくとも、お金は情熱の対象になり得ないんです。お金に情熱を傾ければ、全てを『お金』というモノサシで見ることになる。そしてあたりを見回すと、自分よりもお金を持っている人に気付くことになります」と続けています。
他にもいろいろと心に残ることをおっしゃっているのですが、私の筆力ではとても伝えきれません。とにかくご覧になって下さい。出来れば「最後の授業」の後にご覧になることをお勧めします。日本語字幕はありませんが、画面のパウシュ先生の姿から、様々なメッセージが十分にくみとれるはずです。
個人的な話で恐縮ですが、人生の節目節目で、教師を題材にした映画や動画を見ることが多いです。大学入学の後、モチベーションを失って暴飲暴食の日々を送っていた大学2年生の春休み、ふと思い立ってイギリスを3週間ほど放浪したのですが、その時イギリスに向かう機内でやっていた映画が、Dead Poet’s Society(邦題「今を生きる」)でした。
主人公のキーティング先生の
Seize the day, boys. Make your life extraordinary!
(今を生きるんだ、諸君。型破りの人生を送ってみろ!)
という言葉に、暗い機内で「・・・よし!」と拳を握り締めましたっけ。
2002年に日本に帰ってきてから、一時自分の授業や生き方に悩んだ時期がありましたが、そんなときに見たのが、Tuesdays with Morrie(邦題「モリー先生との火曜日」)でした。
Is today the day I die? Am I ready? Am I doing all I need to do? Am I being the person I want to be?
(今日が人生最後の日なのか?準備は出来ているか?成すべきことは成しているか?理想の自分になれているか?)
そう問いかけるんだと語るモリー先生(パウシュ先生と同じく、不治の病に冒されています)の言葉に、自分の悩みなんかちっぽけなものだ、前に進まなくちゃと思いなおしました。
そして、このところ、教育者・研究者としての自分のありかたにいろいろ考えていたところ、パウシュ先生に出会ったのです。パウシュ先生のような素晴らしいメッセージが伝えられる人間になりたい、そのためにいろいろな勉強をして、それを教え子に伝えていこう。そんなことを考えました。
しかし、こうやって並べてみると、3人の言葉はどことなく似通っていますね。真実は一つ、ということなのでしょうか。
さて、今週も頑張るとしましょう!