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原点回帰

いぬ

通訳・翻訳者リレーブログ

摩天楼のように積みあがった未読の書籍の谷間に、ひっそりと明かりをともすディスプレイ。横幅はたっぷりあるはずの机なのに、どういうわけだかいつも数十センチの隙間で作業をする羽目になってしまいます。

ここ半月ほどは特にその傾向が顕著で、というのも、アマゾンで数十冊、数万円分の書籍をまとめ買いしたからなのです。書籍を数万円と言っても、本業の英語関連のものはごく一部で、残りは「ほしいものリスト」に1年以上入れっぱなしになっていたような「読みたいんだけど、今読む絶対的必要性はないなあ」と思っていた本ばかり。軍事関連の本や敗戦当時の日記やら、リビア人の作家の自伝的小説やら、The World Amanac for Kidsなんかのやさしい英語書籍やら、ライトノベルやら、谷口ジローのマンガ(「晴れ行く空」と「遥かな町へ」)やら、そんなものです。

ここ数年、「論文書かなきゃ、でも書きたくない」病に苛まれていて、自分をあれこれ追い込んでみたのですが、結論が出ました。今のやり方じゃ、ダメです。

いくら自分に専門知識がなくて、専門書やら論文やらを読まなくてはいけないと言っても、どうしてもギアが入りませんでした。修行僧のように「これを正面から乗り越えない限り、先はないのだ!趣味の本など読んでいる暇があるか!」と自分を叱咤していたのですが、そうやって「読まねばいけない本」と向き合っても、一向に内容が頭に入らず、夏休みの宿題と向き合った小学生のように、どうやったら課題から逃げるかばかりを考えていました。

本来の私は、濫読というか、雑食性というか、「それを知ってどうなるの?」というものでも面白いと思うとあれこれ知りたくなってしまう性質で、本や、テレビやビデオなどから得た様々な情報を駆使して仕事に役立てていたのですが、「それではまずいだろう。体系的に学ばねば」と思ってここ数年自分なりにあれこれやってみました。いや、やってみようとしたけれど、やれなかったというのが正確ですね。

情けない話ですが、「やらねばならない」と思うと、10分ほどしか机の前に座っていられないのです。これは子供の頃からの悩みで、何か自分はおかしいのかなあと思いつつこの年になるのですけれども、興味を持ったことだと数時間は平気で打ち込めるので、やはり自己コントロールが未熟ということなんでしょう。

それもまずい、と思って自分を厳しく叱りつけていたのですが、そうこうするうちに新たに何かを学ぶ、情報を吸収するということ自体が面白くなくなってしまい、何と言うのでしょうか、自分の中の貪欲な部分がやせ細ってしまったように感じるようになりました。

このままじゃいかん、というわけで原点回帰です。まだリハビリ中なので、自分でもいまいち食いつきが悪いなと思う時もありますが、隙あらば夢中でページをめくる本があるというのは、実に幸せなことだなと思います。映画も見てみようと思い立ち、会員になったままで放置状態だった、岩波ホールの上映作品を確認したりしてみました。今月終わりには、8月中に一家で行った子供向けコンサートで知った、浪曲師の方のコンサート兼ワークショップに行く予定です。

大学時代に吹いていた尺八を引っ張り出してみたり、妻が大学時代に弾いていたクラシックギターを実家から譲り受けてきてみたり(私自身はギターは弾けませんが、弾いてみたいなーと常々思っていたのです)、空手でお土産に青あざをたくさんもらってきたり、まあ久しぶりに自分に好き勝手を許しています。その一方で、「最低限これだけはやろう」という勉強と研究の目標を決めて、極力毎日こなすようにもしているところです。

ひげ鯨が大量の海水からプランクトンを漉し取るがごとく、情報を大量に吸収して、その中から役に立つものを拾い上げる。それが私の真骨頂だったはず。自分の立ち位置を確認して、思い切りやりたいものです。

・・・などと書いていると、長男が「お父さん、僕、絵本作りたいから、こんな本を借りてきたの」と、今日連れて行った図書館で借りた本を見せてくれました。そういえば、やりたいこととやらねばいけないことのせめぎ合いで苦労している人が、ここにもいたのでした。

1学期は「もっとご本が読みたいのに、宿題やれって言われるのやだ!」とサメザメ泣いていたりすることも多かったですね。こっちも切羽詰っているので「やらなくちゃいけないことは、やらなくちゃいけないの!」と鬼になってしまっていましたが、まあ、気持ちはすごくよく分かってはいたのです。ごめん!

父として言行一致させるためにも、原点回帰した後は、「結果」を出さねばなりますまい、と思う日曜日の午後なのでした。

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記事を書いた人

いぬ

幼少期より日本で過ごす。大学留年、通訳学校進級失敗の後、イギリス逃亡。彼の地で仕事と伴侶を得て帰国。現在、放送通訳者兼映像翻訳者兼大学講師として稼動中。いろんな意味で規格外の2児の父。

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