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頭を砂に突っ込まない

いぬ

通訳・翻訳者リレーブログ

通訳の授業は週に2回ありまして、火曜日を英日、金曜日を日英にあてています。通訳と言っても高校を卒業したばかりの学生が相手なので(上級生や卒業生も聴講生として参加してはいますが)、まずは基礎的な英語力を養成しないといけません。

そんなわけで、4月一杯は宿題として文法の問題集をザッと一通り解かせて弱点の把握と克服をさせ、その後は英日に関しては日本的事象に関する英文を1週間に15本暗唱、日英は瞬間英作文(センテンス単位の日英クイック・レスポンスです)の教材を1週間に16ページ進めるのを宿題にして、授業の最初の15分ほどを使ってペア・チェックをしています。

英語の基礎体力は主に宿題で身につけさせ、授業は出来るだけ通訳練習や背景知識の習得などに費やそうという心積もりだったのですが、最近学生さんが全体的に疲れ気味です。あれですね、私なんかの時代には、宿題が出るといかにやらないで済ますかを考えたものなんですが、最近の学生さんは、というか、うちの大学の学生さんは実にまじめで、とにかく課題をこなすことに全力を尽くします。

結果的に時間が足りなくなって授業には出てくるものの、余力がないという状態です。要領が良いんだか悪いんだか。本音を言えば、課題なんか上手に手を抜いて、自分のやりたいことをドンドンやれば良いのにと思うんですよ。例えば、どうしてもこの本が読みたいから、今週は「ちゃんと準備してないなあ!」と叱られることも覚悟しよう、とか。別に本じゃなくてもカラオケでもデートでもゲームでも何でも良いんですけれども。

英日に関しては、他の先生方とも話し合って、通訳ガイド的な要素を入れてはどうかという流れになっており、ガイド用の書籍を教科書にして使っています。鵜飼の英訳を覚えて来たはいいけれど、用心しないと肝心の鵜飼を知らなかったりするので、教える側も気が抜けません。そのほか中尊寺の金色堂と金閣寺を混同していたこともあり、まあその手の笑えるエピソードには事欠きませんが……。

日英に関しては、最初はNHKの「視点・論点」を見てその感想を日本語で準備させ、それをペア同士で通訳させて、難しかった点を発表してもらって私が試訳を提案する、というやり方を考えていました。しかし割合とこれが上手く行かなかったのです。「相手に伝えたい」と思うような感想を抱くには、相当インパクトのあるものを見ないといけないようで、苦肉の策としてランディー・パウシュ先生の卒業式のスピーチ等を使ってみました。

先週の金曜日は、文字通り「最終兵器」を投入することに。旧ソ連が開発した人類史上最大の破壊力を持つ水爆「ツァーリ・ボンバ」の実験映像の動画をYoutubeで見つけたので、それを見せたのです。

動画が終わった時点で、教室は静まり返っていました。動画には英語のナレーションがついていたのですが、動画のインパクトだけで十分脅威は伝わったようです。ところがその後、内容を一応チェックしたところ、思いのほかナレーションの内容が理解できていませんでした。

話を聞いていると、背景知識がかなり欠けていることが分かったので、第2次世界大戦中のV2号の話から始まり、冷戦と軍拡競争、宇宙開発競争、最近まで話題だった大量破壊兵器などについてザッと説明。駆け足の説明だったのでどのぐらい飲み込めたかは分かりませんが、説明の後にもう一度動画を見たところ、一度目よりは納得した様子でした。その後の通訳演習も、いつもよりは反応が良かったです。

オバマ大統領がプラハであれだけの演説をしたのですから、日本人として核兵器については最低限の背景知識を持っていて欲しいなと思います。以前にも書いたような気がするのですが、問題から目をそらすことで、問題そのものを失くすことはできないわけですから、軍事問題に関しても、知るべきことはしっかりと知っていて欲しいと思います。通訳や翻訳の勉強を通して英語を学んでいるのであれば、そのような話題を扱うこともあるわけですから尚のことです。

軍事関係の知識は、知って愉快なことではないかもしれません。しかし、だからと言って知らないで済ませてはいけないと思います。世の中は奇麗事だけでは回っていませんからね。現実的なことも十分知った上で、それをしっかり背負い、なおかつ理想的にはどうあるべきなのかを考え続ける。学生たちにはそんな後姿を、しっかりと見せておかねばと思っているところです。

……この所、こけるところばかり見せてますからねえ。

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記事を書いた人

いぬ

幼少期より日本で過ごす。大学留年、通訳学校進級失敗の後、イギリス逃亡。彼の地で仕事と伴侶を得て帰国。現在、放送通訳者兼映像翻訳者兼大学講師として稼動中。いろんな意味で規格外の2児の父。

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