メッセージを伝えるのは難しい
金曜日に大学で講演をしました。「通訳に至るケモノ道」という題名で、大学入学直後に落ちこぼれてから、大学を卒業してイギリスに留学し、BBCに勤めるまでのことをざっくりと話した後、学生の質問を受けたのです。
私が言いたかったのは、
・人生、思い通りに行かないのが基本形
・「コツコツ努力できる」のが理想的だが、私を含めほとんどの人は、それが出来ない
・だとしたら、格好悪くとも多少大変でも、いろいろなことにトライしては挫折して、それでも諦め悪くトライしては挫折してという形で、のたうちまわるしかない。その過程で人間的にも知識や能力的にも幅が広がるはず
・人生に「模範解答」はない。人生は「試験範囲のない資格試験」のようなものだから、どんなことでも吸収していけば、いつかは役立つ。逆に、何かを身につけても、すぐに役立つとは限らない。「効率的」に行こうとするほど「非効率的」になる恐れがある
・プロセスを重視すべき。目標は大切だが、そこまで到達した時点で初めて自分を認めてやるのでは、今から目標達成の時点まで、自分を否定して過ごすことになる
というようなことでした。
後半は質問タイムになったのですが、質問そのものは結構出たものの、どうもメッセージをうまく伝えられなかったようで、「あれれ?」というような質問が続きました。
「翻訳がやりたくて大学に入ったけれど、勉強に取り組まずにズルズルと今まで来てしまった。今からではもう遅いか?」という質問が学生さんからあったので、
「遅いです・・・と言われたら、どうします?やめちゃうんですか?やりたいんでしょう?やれば良いじゃないですか、今からでも。そもそも、その質問自体、人に聞くことではないと思いますよ。要は『自分の生きたいように生きても良いですか?』って質問ですよね。良いに決まっているじゃないですか。もちろん、順調に行くかどうかは分かりませんけれど、やりたいことがあったら、上手く行くか、順調に行くかなんてことを考えずに、とにかくやってみたら良いと思いますよ」
と答えました。また、この講演は学外にも解放されていたので、社会人と思しき方も何人かいらっしゃっていましたが、その中の1人が
「会社を辞めて通訳か翻訳をやろうと思っているんですが、どちらが仕事に結びつきやすいんでしょうか。また、お勧めの学校はありますか?」
と質問されたので、ちょっと辛口の答えになってしまいましたが、
「通訳や翻訳をやろうと思っているなら、今ご質問されたことを調べるのも準備のうちです。通訳学校や翻訳学校は、自分と合う合わないというものもあります。学校が実施する無料公開講座などには、行ってみましたか?」
とお話しすると、
「一応調べたんですが、どちらが仕事になるかと思いまして。お金がないので、翻訳の通信教育をやろうと思っているので、学校には見学に行っていません」
とおっしゃいます。
「どちらが仕事に結びつきやすいかは、ちょっと分かりませんが、通訳と翻訳、どちらをやりたいんですか?仕事に結びつきにくかろうが、結びつきやすかろうが、やりたいと思う方をやった方が良いと思いますよ。模範回答はないわけですから。翻訳の通信教育をやろうというなら、とりあえずお始めになったらいかがですか?受講料と言っても数万円程度でしょうから、そのぐらいは情報量とお考えになってはどうでしょうか」
と答えました。ところがそれでも
「では、お勧めの学校だけでも紹介していただけませんか?」
とおっしゃるので、今まで一生懸命伝えようとしていたことが、全然伝わっていないのだなあと思いつつ、
「……まだ、お分かりになりませんか?」
とだけ申し上げると、
「……分かりました」
と、全く納得していないお顔でおっしゃっていました。メッセージを伝えるのが大切だと偉そうなことを言いつつも、結局肝心なメッセージを伝えられなかったのは、実に残念だなと思います。
講演会終了後も質問者が何人も列を作っていらっしゃって、一生懸命答えているうちに、気がついたら40分ほどが経過していました。
いろいろ好き勝手なことを申し上げましたが、何らかの「頑張る(のたうちまわる)きっかけ」を掴んでいただけたのならば、講演者冥利に尽きます。一緒にジタバタしようじゃないですか!