戦わないために戦う人々
陸上自衛隊・富士学校のオープンデーに一家4人で行ってきました。かなりマニアックな方々が集まるのかと思いきや、地元の人も含めて1万人以上の方で学校内は賑わい、出店や子供用のアトラクションもあって、大学祭のような雰囲気でした。
ひとしきり子供たちを遊ばせたり屋台をひやかしたりしたあとに、資料館を見学したのですが、PKOの展示が印象的でした。ほとんど報道されないことですが、ネパールなどにも展開していたのですね。先日イラクから航空自衛隊が撤収したばかりですが、危険と背中合わせの任務に就きながら、国民のほとんどには知られることもありません。
うまく行って当たり前、何か問題でもあれば、それ見たことかと言われかねない立場にある中で遂行する任務は、本当に大変だと思います。海外派遣にはいろいろな意見があるのは理解していますが、派遣するとなった以上、もっと多くの人がその実情を知って、物理的にも精神的にも派遣される隊員の皆さんを支えていければ良いなと思いました。
その後戦車や装甲車が走る様子を見ましたが、見たと言っても絵に描いて額縁にはめたような「黒山の人だかり」で、息子と娘を交互に抱っこしながら人垣の隙間から、腹に響く重低音を轟かせて走る車両を見ていました。
その後、災害派遣用の装備を見学しましたが、これも興味深かったです。子供たちは実際に遭難者捜索用のファイバースコープをのぞかせてもらったり、手動削岩機でコンクリートを割らせてもらったりして楽しんでいた様子でした。雲仙普賢岳の噴火の際には、死傷者が出た火砕流が起きた後に、自衛隊が活躍したと記憶しています。
中央の広場に戻って芝生の上にシートを敷き、お昼を食べていると、大砲の射撃音が周囲の空気を震わせました。「ドンッ!」という音の「ッ!」という部分だけを聞いているような、しかも耳ではなく体全体で空気の振動を感じるような音が連続します。娘はビックリしたようで、食べようとしていたおかずをポロリと取り落としていました(その後しっかり口に入れていたのが、食いしん坊の私の娘だなあと苦笑しましたが)。小さい子たちの中には泣き出している子もいましたね。そのすぐ後に頭上を攻撃ヘリと兵員輸送ヘリが、爆音を響かせながら低空で飛び去って行きました。
妻と子供たちがかき氷を買いに行った後、膝を抱えて広場に展示してある歴代の戦車や装甲車を見下ろしながら、紛争地に生きるというのは、こんな日々なのだろうかと考えていました。BBC時代に通訳したコソボ紛争の映像などが頭をよぎります。ありふれた日常に、突然吹き荒れる暴力の嵐としか表現の仕様のない事態でした。
そんな事態から我々を守るために、ひっそりと、時には冷たい視線すら浴びながら、黙々と努力をしている方々がいるのだなと思うと、頭が下がります。戦うことがないことが一番いいことだと思いながらも、いざという時のために日々戦っている方がいらっしゃるわけです。
平和を守るにも、いろいろな守り方があると思います。積極的に戦いたくはないが、それでも挑まれれば反撃する容易があるぞと見せて、相手の戦意をそぐのもその一つでしょう。また、平和を守るための戦いと言っても、銃を取るばかりが戦いではないと思います。
放送通訳者としては、戦争や紛争が今現在存在しているのだということを、1人でも多くの視聴者の皆さんに伝えて行くお手伝いが出来ればと思います。また、学生さんたちが英語を通して世界の様々な現状をより広く知ることが出来るようになり、自分なりの判断を下して自分なりに出来ることを実行に移す。教員として、そんな学生を育てていかなければと思いました。