念願の初合宿
11月7日、8日
専任講師になったら、いつかやってみたいと思っていた合宿が、ようやく出来た。数年前、非常勤講師時代に青学の学生さんと箱根でやって以来のことだ。
参加したのは男子学生2人(うち1人は日帰り)、女子学生6人。今回は、参加・不参加に関わらず、通翻課程の全員と、僕の「通訳法」の授業の受講者全員にレポートを提出させている。内容は12月に名古屋外大で行なわれる通訳コンテストを睨んだもの。お題は「日英の司法制度」なのだが、これがさらに12のサブトピックに分かれている。それを1人1つずつ割り当てて、A4で最高3枚までという制限で調べたことをまとめさせた。さらに最低20個という縛りをかけて、キーワードリストを出させている。日本語には英語、英語には日本語の訳をつけさせたものだ。
11時に八王子セミナーハウスに集合して、受付の上にあるラウンジに集合。まずはレポートから単語リスト部分だけを抜き出し、それを人数分コピーした。時間がないので縮小コピーなどはせず、3千円ほどかけて一気にコピー。その後、これからの予定をみんなに話す。
今日はまず、単語の読み方などを確認しつつ、僕から適宜解説を加える。その後自分の書いた分野と、もう一つ別の分野について、1分野10分以内で日本語でプレゼン。他の人はそれをメモを取りながら聞いて質疑応答。
明日はそれを元に、担当分野について日本語で1分、英語で30秒程度語り、それを通訳コンテストに代表として出る学生が通訳する。
ざっくりとした予定だが、そんな形にした。部屋のカギを受け取りに階下に行って戻ると、ソファーに座った学生たちが、早くもプレゼンの準備に取り掛かっている!素晴らしい!それなんだよ、大切な姿勢は。何だかもう、全員抱きしめてやりたいほどかわいい。まあ、女子学生がほとんどなので、ホントにやったら手が後ろにまわってしまうが。
12時からは昼食。女子学生諸君から食事に関してとりあえずOKが出たので、ちょっとホッとする。みんなで楽しく食べて、すぐにラウンジに集合して、会議室のカギをもらう。
13時から16時近くまで、単語の確認と開設。休憩も兼ねて部屋に荷物を置きに行かせ、持ってきたチョコレートを出してコーヒーブレイク。
その後日本語でのプレゼンを行なう。みんな本当に良く準備していていて、聞いていて面白い。すでに通常の授業だったら連続3コマ目ぐらいに突入しているのだが、みんなの集中力は切れない。もちろん居眠りをする学生など1人もいない。
18時になったので、食堂に移動して食事。おしゃべりに花が咲く。コンテストに出場する男子学生は、愛すべきキャラクターの持ち主で、女性陣からあれこれ突っ込まれている。まあ、通翻課程のマスコット的な存在だ。「しょうがないなあ、もう」という感じで上級生のお姉さま方も暖かく見守っているようだ。そんな学生たちの姿を見ながら、幸福感とともにトンカツを飲み下した。
会議室は20時からの予約だったので、食事前にカギを返却しておこうとしたら、「ああ、良いですよ」と言われた……ので、食事が終わってラウンジでみんなで一服したあとは、そのまま会議室に直行し、プレゼンと質疑応答の続きをやる。21時ごろまでかかっただろうか?集中力は最後まで切れなかった。
その後、カバンから各自お菓子やらお酒やらおつまみやらを取り出す。「何だかこのまま1週間ぐらい篭城できそうだぞ」というと、みんな爆笑していた。あれやこれやを話しながら、実に楽しく飲む。高瀬兼介の本をカバンから出して、「大学講座」についてみんなに話した。
終了しても短大卒の資格は認定されない講座のために、現役の学者たちがほとんど手弁当で教科書を執筆し、レポートの採点をする。「全ての人に教育の機会を」という強い思いと、「学びたい」という切なる願いがかみ合い、この講座で数万人が学び、1万人近い卒業生が出た。
そんな「大学講座」と、通訳翻訳課程、さらには今回の合宿が重なるのだ。参加したところで免許がもらえるわけでも、成績に上乗せがあるわけでもない。むしろ履修条件は大変になり、課題も増える。それでも学ぼう、いろいろなことを知ろうという、その気持ちが嬉しい。教員として意気に感ずるところでもあるし、それに応えるという責任をズシリと感じることでもある。でも、それを受け止めて、ぜひ前進していきたい。
そんなことを話した辺りから、何だか人生相談みたいな雰囲気になっていた。いろんな話を聞き、いろんなことを話したが、みんな一生懸命に生きているんだなと思う。男子学生も女子学生も、いつの間にやらティッシュで鼻をかんでいた。
夜が更けるにつれて学生たちのテンションは上がり、まだまだ話したりない様子だったが、ふと時計を見ると3時近くになっていた。学生たちを部屋に送り返し、会議室を片付け、就寝。
翌朝は7時前に起きて、少し本を読んだ後シャワーを浴びて、ラウンジに行き新聞を読む。学生たちが三々五々集まり出して、朝食。なんと、昨日部屋に戻った後、何だか眠れなくなり、僕の火曜日の授業(通訳法)の課題であるディクテーションをやっていた学生もいたらしい。
9時半からは午前のセッション。いよいよ通訳だ。代表の男子学生だけでなく、他の学生にも通訳をやらせ、僕がコメントし、僕なりの訳出をやって見せる。ピンと張り詰めた空気のまま、11時に合宿は終了した。そう書いてしまうとなんともあっさりしているようだが、あの充実した学びの空気を描写できる表現力がないのが、なんとももどかしい。
みんなでチェックアウトして、全員でご挨拶してから退出した。駅までのバスの中、学生たちが申し合わせたように船をこいでいる。みんな「お腹一杯食べました」という表情だ。それでいい、それで良いんだよと思っているうちに、僕の意識も途切れ、肩を叩かれて気づくと八王子駅だった。