戸田奈津子先生特別講義
1月6日のこと。
いよいよ当日となった戸田先生の特別講義。対象は手塩にかけて育ててきた通訳翻訳課程の学生たちだ。教室には入試広報部の取材陣が控えていて、どこの記者会見会場かという雰囲気。学生もスーツを着てきた者もいて、気合の入り方が違う。
満を持して戸田先生登場。最初に学生たちの字幕翻訳を見ていただき(前日夜にムービーメーカーを使って必死に字幕つきのムービーを作成した)、コメントをいただいた後に学生からの質疑応答をしていただいた。非常にサービス満点というか、ひとつお聞きすると10ぐらいお返事が返ってくるという感じで、90分間があっという間だった。あれなら2時間は最低欲しいとしみじみ感じた。ぜひまた来ていただきたいなと思う。
印象に残ったお話を列挙する。
*一般的なことについて
・就職したら、あれこれ縛られる。卒業までに、自分の行きたい方向を決めておきなさい。
*字幕について
・本来「あるべきもの」ではない
・映画監督にとってみれば、画面の邪魔になるもの
・だから「すぐ読めて」「うるさくない」ことが大切
・感嘆詞(「えー」「あー」など)入れない。見れば分かるから
・句読点も入れない
・字幕の訳が甘いと、「違う作品」になってしまうから気をつけること
・漢字は常用漢字しか使わない(「全て」は「すべて」と表記)
・この10年で、字幕の需要激減。吹き替えが急増する
・いずれ公開作品の8割が吹き替えになるのでは
・選択肢の広がりとしては、歓迎する
・しかし、活字離れ、日本語力の低下が原因で字幕がなくなるのは許せない
・訳出していて詰まった箇所は、飛ばして先に進む
・後で何かのきっかけでインスピレーションが沸いて訳せること多い
・かつては真っ暗な試写室で、大画面で1度見てから翻訳に取り掛かった
・暗闇で映画と対峙してこそ、伝わってくるものがある。小さな画面では難しい
・そのときの印象があるから、登場人物のせりふが浮かぶ(語り口が決まる)
・毎日少なくとも7時間は睡眠をとる
・睡眠時間を削ると、良い訳が浮かばない
*字幕翻訳の勉強などについて
・日本語の表現力がなければ、字幕は訳せない
・日本語力はHow toの方法論をいくら読んでもダメ
・いい文章を読むしかない。時間がかかる
・古典でも文学でも何でも良いが、「良い文章を書く人」の文を読むのが大切
・弟子入り志願者には、英語で映画のあらすじを読ませ、日本語で書かせる
・しかしたいていは、翻訳調でこなれていない
・「この映画、見たいな」という気持ちを持たせられないなら意味はない
・中学高校で作文を書かせない→日本語力の低下
・昔は本ぐらいしか娯楽がなかったが、それがかえって良かった
・一般的な翻訳でこなれた訳文にするには?という質問→頭にいったん意味を取り込んでアウトプットする
・字幕翻訳の練習もいいのではないか?
字幕翻訳の事情そのものは「へえ」と思う話も多かった一方、勉強方法などに関しては、自分の方針を再確認するような形になった。「理を知り、数をかける」わけで、「数をかける」ために鬼軍曹たる僕がいる、と。さーて、今年も楽しくビシビシやって行こう。