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「ハンナのかばん」出張授業を見学

いぬ

通訳・翻訳者リレーブログ

5時過ぎに起床。あれこれやってから、朝食を作り、6時半過ぎに家を出る。今日はホロコースト教育資料センターがやっている「ハンナのかばん」の出張授業の見学をさせていただくのだ。

K女学校の最寄り駅で、センターの代表である石岡さんと落ち合い、学校に向かった。講義の内容は、素晴らしいの一言だ。これはなんとしてもウチの大学にもお呼びして、学生に見せないと。印象的な情報を列挙する。

・ホロコーストで命を落とした子供たちは、空襲などの「巻き添え」で死んだのではない。「標的」にされ、「計画的に殺害された」
・世界恐慌などの余波による、ドイツの経済的苦しさ→強い指導者を求める機運の高まり→ヒトラーの登場
・ヒトラー「わが国の問題は、我々の中に裏切り者がいるから。だから排除してしまえばよい」
・当時のドイツ人口に占めるユダヤ人の割合は、0.75パーセントに過ぎなかった
・ユダヤ人殺害に至る、周到なステップ
㈰ユダヤ人とは誰かを定義してしまう
当初は鼻の大きさや頭蓋骨の大きさ、髪の毛の色などで「人種」として分けようとした(無理)
結局、3世代前までさかのぼってユダヤ教を信仰している人を「ユダヤ人」と定義する。
㈪ユダヤ人の登録を行う
国勢調査
(講義では触れなかったが、IBMのパンチカードマシンの写真が出ていた)
㈫ユダヤ人の区別の明示化
ダビデの星を服に縫い付けることを義務付ける
(ベビー服にダビデの星を縫い付けられた赤ちゃんの写真が痛ましかった)

・ハンナが最初に入れられたテレジン収容所では、秘密裏に子供たちの教育が行われていた
・ただ、テレジンは赤十字の査察なども受け入れており、プロパガンダ的観点から、ドイツ側がそのような行為を黙認していたとも思われる
・収容されていた教育者や芸術家が先生になる
・戦後、子供たちの描いた絵、5千枚が残る(もちろん隠されていた)
・アウシュビッツでは、15歳以下は、まず到着時に生き残れない。労働力とは見なされず、即ガス室へ
・アウシュビッツの広大さ。第1収容所から第4まである。第1と第2だけで、東京ドーム40個分の広さ
・テレジンからアウシュビッツに送られた人の名簿。1ページに載っていた人の中で生き残ったのは、ハンナのお兄さんのジョージさんだけだった
・ジョージさん「両親の死とは向き合えた。両親が喜んでくれるような生き方をしよう、前を向いて生きようと決めた。しかし、絶対に守り抜くと決心していた妹の死には、長らく向き合えなかった」
・ジョージさん「日本の皆さんがハンナのことを知ってくれて嬉しい。人の痛みを思える、やさしい世界を作って欲しい」
・2月9日で、ジョージさんは82歳になるが、家族に囲まれ非常に活動的で幸せそう
・The story should have ended here.ネオナチの台頭。ハンナのかばん、放火が疑われる火事で消失
・アウシュビッツが開放された1月27日は、国連の定めた「ホロコーストの日」
・杉原千畝氏の救った女性、オーストラリアに。To save a life is as if you have saved a whole world.

ハンナのかばんの原作本(やさしい英語だし、長くないし、値段も安い。英語学習にもお勧め)を読んだときにも感じたことだが、改めてハンナのたどった人生をなぞってみて、彼女を救えなかったことが残念で悔しくてならない。絶対に2人目のハンナを生み出してはならないと思う。そういう世界を作っていくことが、我々今の大人たちの課題だろう。

右だとか左だとか、イスラエルだとかパレスチナだとか、そういうカテゴリにこだわっているうちは、本質的なものが見えなくなる。考えてみれば当然のことなのに、それがなかなか出来ないものだ。

縁遠い話ではなく、自分にも大いに関係のあることとして、この話を認識できるようにならなくてはいけない。少なくとも、先日新聞だかネットだかで読んだアイドルグループのように、ヒトラーを偉人扱いして「ヒトラーおじさん」と呼び、ヒトラーの演説は「癒しの効果があった」などという発言を電波に乗せては絶対にいけない。

ちなみに、この件に関しては2つの側面から見ることが出来ると思う。

ひとつには、当事者である子供たちの問題。学びの不備だ。あれは絶対にテレビ番組の中の「お笑いネタ」にして良いことではない。そういうことを言った子達にこそ、「ハンナのかばん」の出張講義を受けて欲しいなと思う。

もうひとつは、そういう発言をそのまま放送して、恬として恥じない放送局の大人たちの問題。生放送ならテロップで謝罪するべきだし、録画ならばそもそも放送するべきではない(いや、このあたり僕もちゃんと調べてから批判するべきなのだが)。そのあたりの倫理観をしっかり持っているべきテレビ局の大人たちが、ネットなどで叩かれるまで何もしなかったのは、アイドルグループ以上にいけないことだと思う。Shame on you.

さらに、そういうテレビのあり方を受け入れている視聴者も、実はこの一件に加担しているに等しいのだ。メディアは受け手を写す鏡という面もあるのだから。つまり、僕を含む大人たち全員の問題だと言うこと。そういう認識が必要になると思う。

む。そう考えてみると、ああいうことを言う子供たちを生み出したのも大人の責任なのだな。ここに問題は一本化されてくるか。

授業見学の後は、大学に行って成績処理。アマゾンから本が30冊ほど届いていたが、いつもは過剰とも思える包装をするくせに、ここぞという時に限って、大きなダンボールに本を大量にぶち込み、お情け程度の梱包財(紙を丸めただけのもの)が入っていただけだった。おかげで1冊ページが折れた本があったが、ま、たいしたことでもないのでそのままにしておく。中身が読めりゃ良い。

無事に成績をつけ終わって提出。帰宅。あの話をどう学生たちに伝えるのか、ずっと考え続けていた。

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いぬ

幼少期より日本で過ごす。大学留年、通訳学校進級失敗の後、イギリス逃亡。彼の地で仕事と伴侶を得て帰国。現在、放送通訳者兼映像翻訳者兼大学講師として稼動中。いろんな意味で規格外の2児の父。

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