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英語習得の「常識」「非常識」

いぬ

通訳・翻訳者リレーブログ

近くの図書館から借りた「英語習得の『常識』『非常識』(大修館)」という本を読んだ。なかなか面白いことが書いてある。以下、列挙する。

・「言語遺伝子」というものが、どうやら存在するらしい。

FOXP2と呼ばれ、この遺伝子に欠損がある、イギリスのある家系では、何世代にも渡って同一の言語障害があるのだそうだ。おお、興味深いぞ。

・文系形態素の習得順序(母語の場合)

進行形→複数形→一般動詞(不規則過去)→所有→be動詞→冠詞→一般動詞(規則動詞)→三人称単数現在

へえ。何か、考えていたものと違う。イギリスに住んでいたとき、父親がイギリス人で母親が日本人の男の子と良く会っていたが(たしか、息子より数ヶ月先に生まれた子)、一番最初に話したのが「Mine!(ボクのっ!)」だったっけなあ。Mの子音をきれいに出した、それこそ「ネイティブ」的な発音で「ンマインッ!」って言ってたっけ。懐かしい。

・イマージョン教育は、ペラペラ話すようにはなるが、文法的に正確には話すようにならない。

発話中心の学習だと、文法がどうしても欠如してしまう。
文法能力などが5段階評価の2と2+の中間。
ちなみに、1960年代に非イマージョン的な勉強をした人の記録を見ると2+と3の間ぐらい。
さーて、これだけをもってイマージョン教育を否定するのは早計とは思うのだが、イマージョン推進派の方々は、どういう反応をされるのであろうか。SEL-Hiの先生なんかは、どう思うの?
バイリンガルを育てるつもりが、「セミリンガル(母語も外国語も中途半端)教育」を推進しているのだとしたら、悲しいと思う。

・研究そのものに関するコラムも、非常に興味深かった

あまりに包括的なテーマにしてしまうと、サンプルの収集にせよ分析の方法にせよ、難しくなる。だから絞り込んで「研究」するしかない。
しかしそうすると、例え「第二言語習得や第二言語教育が専門です」と言っても、「英会話が効率よくさっと身につく方法は?」などという質問に答えられない。
逆に、そういう質問に対してパッと出てくる答えは、裏づけのない「俗説」であることが多い

・文法指導においては、パタン・プラクティスよりもフォーカス・オン・フォームが有効

え?パタン・プラクティスはダメっすか?そうかなあ。PP、言語操作能力を向上するトレーニングとしては、良いと思っていたのだが。

書き換え問題なんかも、あれは「ナチュラルな英語を吸収する」のではなく、「英語の言語操作能力を上げる」というトレーニングだと思う。だから「あんな『不自然』な文を作らせて」という批判は当たらない、というのが個人的な考えだ。あ、これ、ちゃんとデータ取ったわけじゃないから、「印象」「俗説」の域は出ませんが。

FOFは意味のあるやり取りを主体として、その中でその文法規則に注意を向けさせるやり方だそうだが、それはモチベーションの高い学習者には有効でも、低い学習者には効果的と言えるだろうか。そういうときにはPPの出番だと思うのだが。……はい、「印象」ですってば、「印象」。あー、でも、現場の教員としての「直感」のようなものがあって、それって結構当たる場合が多いんだよな。だから、その「直感」を検証するためだけに、いろんなエネルギーを割こうと言う気が起きない。正直なとこ。でも、それじゃあ、研究者とは言えないな。ダメじゃん!あうう。

・誤りを訂正したところで、身につかない

まあ、それはショックな事実であるが、じゃあ誤りを一切修正しない方が身につくのだろうか?これも学習者の個人差が大きすぎる話だと思う。

・いわゆる「臨界期」はない

そりゃそうだろう。いまだに多いよなあ、「ハヤク始めないと!」と親の危機感をあおる商法。そうやって幼いうちから「商品」として取り込もうという魂胆なのが、なぜ見抜けないんだろうか。「損得」で全てを見るから、そういう手にコロッと引っかかるんだと思うんだけどなあ。「これやっとかないと損ですよ」って言われて、「あ、やんなくちゃ」って思うのって、実演販売を見ている小学生とほとんど変わらん反応だよ。

・「英語耳」も「日本語耳」も存在しない

そりゃそうだ。

・英語脳も存在しない

同上。

・「学習者の頭の中で何が起こっているか」ということと「どうやったら頭の中で起こっていることを促進(あるいは抑制)できるか」ということは別のこと

そうなんだろうな。それはそうなんだろうとは思う。でも、第二言語習得研究の成果をどう外国語教育に応用するかは、「外国語教育研究者や実践者が取り扱う分野です。(P.156)」って、火の付いたダイナマイトみたいに放り投げちゃうのは、どうなんだろう?外国語教育研究者の端くれ(見習い)としては、どんどん短くなる導火線を凝視しつつ、どうすりゃ良いのだろうか、と眉毛をハの字にしてしまう。

このあたりが、通訳関連の論文を書く気にならない理由(言い訳とも言う)なんだよなあ。通訳研究でも、それこそ「通訳をしているときに、頭の中ではどんな動きがあるのか」という研究は盛んなのだが、その成果をどう通訳教育に生かすのかは、ほとんど手探り状態だ。その辺り、本書にある「役に立たない空論」という言葉がどうしてもチラチラしてしまう。いや、そういう状況を何とかしたかったら、まずは自分がちゃんと研究しろって言うご意見は、もちろん分かってはおりますが。はあ〜。

……などとため息をついていたら、更新が遅れました。申し訳ございません!

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記事を書いた人

いぬ

幼少期より日本で過ごす。大学留年、通訳学校進級失敗の後、イギリス逃亡。彼の地で仕事と伴侶を得て帰国。現在、放送通訳者兼映像翻訳者兼大学講師として稼動中。いろんな意味で規格外の2児の父。

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