原岡先生最終講義
今日は僕の所属する学科の礎を築いたという原岡先生の最終講義だった。学科長など様々な役職を歴任された後、数年前に退官されて、以後非常勤講師として出講していらしたのだが、非常勤講師としても定年を迎えられたとのこと。
専門は、「オーラル・インタプリテーション」と言って、分かりやすく言うと「話し手(書き手)の気持ちを深く汲み取って感情を込めて行なう朗読」といったことになるだろうか。お話を聞いていると、僕の興味のあることとかなり重なる分野であることが分かり、大興奮の80分であった。
以下、メモから抜粋。
・1968年、川端康成がハワイで講演。しかし講演とは名ばかりで、ほぼ文学作品の英語音読(日本人の研究者が音読した)に終始し、質疑応答も非常にとらえどころのない答えばかりだった。
・聞き手を説得できる力がなかった
→翌日の新聞で酷評
・当時原岡先生は、ハワイ大学に留学中だった。作者の意図を読み込んで、interpretして聴衆に伝えるOral Interpretationという教科書を買って読む。
→ジェスチャーなどなしで、音声だけで伝える。
・学生に教えるにあたって、まず短い詩から始めた。マザー・グースの4行詩。
・続いて、洋楽の歌詞を朗読させる。音の高低、長短なしで、どう表現するか。
・オーラル・インタプリテーションは大きく3つの分野がある。
prose(散文。ただし、日記や記事、エッセイ、スピーチも含む)、poetry(詩)、drama(演劇の台本)
・文の強勢とリズムを中心に、日本語と対比させて教えていった。
1 英語はstress-timed rhythm (強弱)← →日本語はsyllable rhythm(高低のみ)
これを童話などを例に教える
2 ピッチ・イントネーションを教える
英語は4段階の音の高さがある← →日本語の音の高さは2段階(強弱のみ)
Yesの意味の違いを音で出して訳させる。(ピッチが高→低、低→高、低→高→低→高など)
3 読む教材を選ぶ
・指導の実際
1 リスニング
2 フレージング(どこで区切れているか。高校の時のように、文法的根拠から切るのではなく、実際に音を聞いて確かめさせて記入)
3 ストレスマークを付けさせる
4 音声変化(リエゾン、音の脱落などなど)
5 シャドウイング
6 translation(読み手の気持ちを、辞書的な意味に囚われず、自分の言葉で)
→motivation重視。じっくり取り組ませると、日本語での朗読にも耐えうるような訳文が出来る
7 プレゼンテーション
・発音とfluency止まりにならず、説得力や高揚感を与えることまで目指す
→帰国子女で、単に発音がよく流暢なだけでは、全く評価されない
→「オバマ大統領の演説、細かいことは分からないけれど、感動して涙が出た」という、おばちゃんの声。それを目指す
・今後はオーラル・インタプリテーションを通して構文を教えてほしい
講演終了後に、訳文作成に関して質問させていただいた。独りよがりの訳にならないためにどうしているか、という内容だったのだが、「基本的に1クラス15人程度の少人数で行なうので、個人指導的に目を配っている」とのことだった。
面白いなあ。通訳の要諦と重なることが多い。メッセージをしっかり汲み取って、それを聞き手に伝えるわけだ。
名文の一節を納めた、CD付きの教材があるが、あれを4月から通翻課程の新入生にやらせてみようかなあ。
レセプションでさらに質問させていただいたが、ある教材をCDなどを聞いて徹底してやりこむと、学生たちはCDのない教材でもある程度効果的に読めるようになるらしい。単なる耳コピーではなく、普遍性がある技術と言うわけだ。ますます興味深い。今後もいろいろ勉強させていただこう!