うたかたに思う
窓にかかったワニさん模様のカーテン越しに、朝の光が差し込んでくる。寝ぼけた頭に、雀たちの鳴き声。
サイダーを注いだときに立つ泡のように、何だか体の奥底からシュワーッと力がわいてくるような、「よーし、充電完了!さあ、遊ぶぞー!」というような気分。
小学生の頃の日曜日の朝の、あの鮮烈な経験は、もう二度と味わえないものなのだろうか。グラスに炭酸飲料を注ぐたびにそんなことをぼんやり思う。
大学卒業直前から卒業した年の7月まで、とある英会話スクールで時間講師をやっていたのだが、そのとき担当したある生徒のレッスン・カルテに、別の講師の講評があった。
She is bubbling with energy.
瞬間的に思い浮かんだのが、あの日曜日の朝の感覚だった。もちろん、実際にはもっとマグマのような、そんな迫力ある意味合いなのだろうが。
あの英会話スクールでもいろいろ学んだ。結構良い収入だったので、これでしばらく安泰、などと思っていたら卒業した年の夏に倒産だもの。どうやって企業がつぶれていくのかを、給料が遅配になったり無配になったりすることから経営陣との団交まで、いろいろ経験できた。
会社がつぶれた日は、社長宅へ押しかけて、警察を呼ばれて解散させられて、その後渋谷の伯父のところに泊まったのだった。
自分なりに授業に力を入れていて、教えるのをエンジョイしてもいたあの英会話スクールは、都内各地に教室があったのだが、その跡地には別の英会話スクールが入ったり、そこも撤退したり。伯父もいくら尋ねて行っても会えなくなってしまってから、もう4年も経つ。
僕もいつの間にやら通訳者になったり、大学の教員になったり、結婚したり子供が生まれたりして、年を重ねた。連続留年の挙句にようやく大学を卒業したばかりの24歳の自分とは、本質的にはそれほどの進歩はないように思うけれど、まあ表面的にはずいぶんと違う。
人も社会もどんどん変わるのだなあ。炭酸飲料の泡だけは、グラスに注げば、昔と同じに景気良く沸いて来るのだけれどね。