ニワトリと卵
現在、あるリスニング対策講座を開くべく、先方の担当者とミーティングを繰り返している。自分なりに考えて授業をくみ上げたのだが、担当者曰く「これでは同時通訳用の講座。そこまで徹底して理解しなくても、リスニング問題は解ける。力がない人が、最低限の努力で問題を解けるようにするには、どこに注意したら良いのかをピンポイントで突かないといけない」とのことで、ダメ出しをいただいた。
う〜ん、なるほど。リスニング対策としては、オーバースペックであったか。
指摘されてハッとしたのだが、確かに同時通訳をすることをどこかで意識していたようで、区切り聞き通訳的なエクササイズやら、シャドウイングやらを導入しすぎていた。
今までは「リスニング力を上げるために、総合的な英語力をつけましょう」というスタンスばかり取ってきたので、その方法に別段問題を感じなかったのだが、今回はそうは行かない。う〜む。
そもそも、聞き取るときに何に注意するか、というジェネラルな指摘が実にやりにくい。あれこれ言い出せば、最終的には「リスニングをしている人の実力に応じて注意をすべきポイントも変わるだろう」ということになってしまう。それでは「対策」もへったくれもない。
参ったな。正攻法(と自分では信じてきた方法)ではなしに、奇計……とまでは言わないが、「解法のテクニック」的なものを全面に出すことを求められているのか。
「初めて聞くものを、どう理解するのか」。これは、初見通訳はどうやったら上手くなるのか、という質問にも似て、実に答えづらい。空手で言えば、「組手はどうやったら強くなれるのか」ということだ。
「毎日突き蹴りを千回ずつやって、20キロ走って、数日おきに筋トレやれば強くなるよ」と言っておけば、それは誰でも現時点よりは強くなれるだろうが、ここで求められているのはそういうことではない。「体力もそれほどない上に、稽古の時間もそれほど取れない人が、組手の際にどこに意識を集中させるべきなのか」というような、「指針」的なものが求められているらしい。
いろいろ話したが、通訳と同じく、それはなかなか提示するのが難しい。
結局は、全文を見た上でキーワードを選び、何故そのキーワードがキーワード足りえるのかということを解説の一つの軸に据え、さらにもう一つの柱を導入することにした。後者に関しては詳述を避ける。
でも、恐らくは、学ぶ側が知りたいのはそういう「後知恵」で「ここが大事」というようなことではなくて、どうやって英語を聞きながら「それと同時に」キーワードをつかめるのかということなのだろう。しかし、実際問題、ある程度力があるからこそその判断が出来るわけだから、「ニワトリが先か、卵が先か」という話になってしまう。
そこに極力目をつぶりつつ、講座を受講し続けてもらうことで少しでも力をつけてもらうことを裏テーマに、一回一回の講座に取り組んでもらうしかないだろうか。
僕にしても先方の担当者にしても初めての経験なので、産みの苦しみというか、手探りの悪戦苦闘が続いている。しかし、担当者の語学講座に対するセンスには絶大な信頼を置いているので、何とかその方を満足させるような講座の枠組みを作りたい。それが出来れば受講生にも満足してもらえ、僕自身も「燃えて」教えられるような、八方丸く収まる形になるはずなのだ。
ここが思案のしどころ。大学の授業や、T&Iの指導にも還元できるはずだ。頑張ろう。
……などとドタバタしていたら、ブログのアップが大幅に遅れてしまいました。すみません。