BLOG&NEWS

考えていることあれこれ

いぬ

通訳・翻訳者リレーブログ

毎週月曜日にブログを担当していたころと違い、書く機会が1か月に1回となると、ついつい準備を忘れがちになってしまう。(すみません!)

気が付いたら出番になっていたので、あわてて読書ノートやらメモ帳やらをひっかきまわしていたのだが、料理で言えば材料をそろえたところで時間切れになってしまった。

そんなわけで、せっかくだから集めた材料やら思考の断片やらを並べておこうと思う。

***

どうやって「手っ取り早く」英語力をつけるのか。これにはもう何十年も前に答えが出ていると思う。出来るだけ楽に、簡単に英語力をつけようと思ったら、「文法訳読」「受験英語」だ。帰国子女でもなく、長期留学をしたわけでもない僕が通訳になれたのは、その一つの証拠だろう。

僕は、「文法訳読」と「受験英語」の最終進化形だ。

外国に行かないでも、英語環境に身を置かないでも、英語を学べるように体系づけられた文法訳読。さらに英語の達人たちが書いた「斬れる英語」「使える表現」「とっておきの英語」的な本の乱読。そして50年代60年代あたりのオールディーズが好きで、聴き込み、歌詞を書きだして一緒に歌っていたこと。これによって英語環境に放り込まれても生きていけたし、そこから吸収して英語力を伸ばすこともできた。

いわば、徹底した「畳の上の水練」&「プールでの練習」をやったうえで、海で遠泳をやったわけだ。

しかし、13年前に放送通訳者としてデビューした時点ではそれでよかっただろうが、いまだにその段階から脱却できていないのはまずい。非常にまずい。過去の遺産と言ったらいいのだろうか、分厚い「メッキ」と言ったらいいのだろうか、そんなもので対処し続けているのは、13年間一歩も進歩がない証拠だ。

現状でもかろうじて放送通訳の仕事はこなせている、いや、こなせていると見せかけることはできるので、さらに努力をしようという内発的動機に欠ける。その一方で力不足なのは分かっているので、「やる気がない」などと言っている自分も許せない。

教えられるのは、自分の立っている次元まで。もっと高いところに登って、教え子をそこまで引き上げられてこその教員なんじゃないか。イライラする。

(メモ 3月3日)

***

「のんちゃんのり弁」 入江喜和 MORNING KCDX

「お酒飲んで 歌うたって キレイにして ……とどのつまり『女』しか売るとこのない仕事なんて苦痛です」(上巻 P.124)

「奥さん 素直なんだよね すぐ感動したりびっくりしたりね。 そのせいか 少々いきおいまかせにものいうとこあるね…… 弟子になんか できませんよ」(上巻 P.208)

「今やってることなんて— 失敗しようが恥かこーが もっとずーっと年取っちゃえば ”すべては若気の至りでございました”でおわり!(上巻 P.254)

「いっしょにいこーよ のんちゃん もうママのことキライっていわないから」(下巻 P.349)

(読書メモ コミックス)

***

私も立場上、企業の人事担当者の方々と話をする機会が多いが、そのときよく言われるのが「リベラルアーツをしっかり身に付けさせてほしい」ということ。リベラルアーツは「教養」と訳されることが多い。無論、大学では教養教育は重要なミッションであるが、ともすれば専門教育と比較され、非常に軽い扱いを受けてきた点は否めない。

(日経新聞 2月15日 上智大学 高祖敏明教授)

***

「心の野球」 桑田真澄 幻冬舎

プロ野球は弱肉強食の世界だからこそ、勝利至上主義ではいけない。ビジネスの世界だからこそ、金銭至上主義ではいけない。勝ったとしても、きちんとしたプロセスを経てなければ価値がない。たとえ負けたとしても、大事なのはそこからどうやって起き上がるかだ。(P.242)

(読書ノート)

***

「軍用輸送機の戦い」 飯山幸伸 光人社NF文庫

「アメリカ合衆国国内でライト兄弟の飛行機械に『原理特許』が認められてしまったがために特許権珪藻が引き起こされて、第1次大戦期頃の米国内の航空機産業がヨーロッパ各国と大きく水を開けられてしまった」(P.355)

(読書ノート)

***

社内での英語公用語化と言っても、つけるべき力は英会話スクールに通って身に付けるようなものではなく、もっとアカデミックな、業務文書を読み解くとかそれに対してきちんとした英語で返信のメールを書くとかいうものではないのか?

社内英語公用語化のために、英会話スクールに通う。そういう「軽い」英語でよしとされている、つまり目標があまりにも低いために、本質的な問題点は目立たない。

知的な、「お仕事」のやりとりをしようとしたら、母語である日本語や、教養などと言う話にだってなってくる。

電車に乗って見回しているがいい。携帯とゲーム機を手にして「いない」ひとなど、ほとんどいない。言葉を習得することをなめるな。スーツ着て、ネクタイしめてゲーム機を操作している奴らが、何が社内英語公用語化だ。

(2月某日 通勤の電車内でのメモ)

***

「大人のいない国」 鷲田清一 内田樹 プレジデント社

「学生の就職活動の様子を見ていても、世の中には自分だけにしかできない『唯一無二の』適職がどこかにある、という幻想を刷り込まれていますね。(中略)唯一無二のオリジナルな人間として自分だけにしかできない人生を生きなければならないと信じ込まされているから。だから、何かを始める前に、『本当の自分らしさって何だろう?」と自問したままその場に凍り付いている。でも、個性というのは、まさにインターディペンデントな関係の中で、その人が何らかの役割や業績を果たしたときに「あなたはこういう能力があり、こういうことに適性があった」ということを周囲から承認されるというかたちで知るわけですよね。個性というのは自分で名乗るものではなくて、他者から与えられるものでしょう」(P.19)

(読書メモ)

***

「世に出回る映画や小説の99%は、主人公が自分の運命を変え、新しい世界を切り開く物語といえる。

しかし、現実は違う。例外はあれ、ほとんどの人はある国、ある状況に生まれたら、その限られた世界の価値観の中で、ベストを尽くし、自分の生きる意味を見いだし、尊厳やほこりを持って生きようとする。ときにはそれが自爆テロになる、といった犯罪的行為であってもだ。誇りこそが、人間が犬や猫や他の動物と違うことを証明する大切なもので

あり、私は非常に興味をひかれる。」

(日経新聞 2月9日夕刊 カズオ・イシグロ氏 インタビュー)

***

Learn from the past. Do not repeat the worst.

(3月某日 メモ)

***

以上。来月こそは料理をしようと考えている。

(おまけ 昨夜のいぬ家の夕食時の会話)

息子「ねえお父さん、ロビン・フッドって、どういう人?」
いぬ「ああ、それは……」
妻「それってホラ、リンゴを頭の上に乗っけてる……」
いぬ「それは『ウィリアム・テル』!」
妻「曲があるよねえ、ちゃんちゃかちゃかちゃか、ちゃんちゃかちゃかちゃか……」
いぬ「それは『カルメン』ッ!」
妻「緑の服を着てる……」
いぬ「それはひょっとして、『ピーターパン』じゃないのか?」

最初は冗談でボケてるのかと思って突っ込んでいたが、本気で度忘れしたらしい。その後も「ガリバー」とか、いろんな人物が頭の中を巡っていたそうな。

地雷原を探知機なしで通過できそうな人だなあ。わが妻ながら感服。

Written by

記事を書いた人

いぬ

幼少期より日本で過ごす。大学留年、通訳学校進級失敗の後、イギリス逃亡。彼の地で仕事と伴侶を得て帰国。現在、放送通訳者兼映像翻訳者兼大学講師として稼動中。いろんな意味で規格外の2児の父。

END