不覚ッ!
10月1日から9日までロンドンに出張に行っておりました。担当する通訳翻訳課程の学生が、技能五輪でボランティア通訳を務めたので、そのサポートです。
それとは別件で、勤務先の大学に、10月末にポーランドの劇団がやってきます。たまたま劇団と大学とのパイプ役を務めて下さる非常勤講師のN先生とロンドン公演を終えたばかりの劇団の代表が同じ時期にロンドンにいることが分かったので、3人でミーティングをすることになりました。
そんなわけでロンドンに到着した翌日、朝食をとった後に、ミーティング場所であるロイヤル・フェスティバル・ホールまでテクテク歩いて行くことにしました。距離的に地下鉄で行くよりも手っ取り早いのです。
少々暑かったものの、天気が良く、たっぷり眠れた後だったので、気分的にウキウキ歩いていました。そのあたりに隙があったのでしょう。
国会議事堂前のラウンドアバウトに差し掛かったあたりで、小柄なおばあさんがスススッと行く手をふさぎ、手に持っていた小さな造花を、私のシャツの胸ポケットにスポッとさしました。
あ、しまった!久々なので油断してました。
まあ、一本取られてしまったものは仕方ないので、ここは割り切って被害を最小限にとどめることにします。
案の定というかなんというか、早速おばあさんは、
「こんにちは、まあまあ、良い天気で、どちらから?日本?あらそうですか、それでですね、今日は子供たちのために募金を募っているんですよ。これはとても大切なものでね、いくらか募金していただけませんか?あなたに神の祝福がございますように」
とまくし立て始めます。さっさと小銭入れを取り出して、1ポンド硬貨を取り出すと、あからさまに驚いた表情を作り、
「あらあ。これはですね、とても大切な募金なんです。たいていの人はね、紙のお金をくれるんですよ。紙のお金分かりますか?これね?みんな募金して下さるんです。紙のお金でね。大事な募金ですからね」
とのこと。手には20ポンド紙幣を持っていますが、どうせ自分で用意したものでしょう。募金と言っても、おばあさんのポケットから先へは行かないのは目に見えています。大体何で20ポンドもの大口寄付をしなくてはいけないんでしょう。
あえてニコッと笑うと、
「これって、『寄付』ですよね?」
とおばあさんに確認します。
「ええ」
とおばあさん。
「それじゃあ、これが僕が寄付する金額です」
とおばあさんが手に持っている入れ物に硬貨を入れました。
「ありがとうございます。神の祝福のあらんことを」
と営業スマイルを作るおばあさんに、挨拶を返してさっさとその場を去りました。
2006年にエルサレムの嘆きの壁を訪れた時も、まったく同じパターンの出来事がありまして、まったく同じ方法で対処しました。
まあ、そういうことをする人は、しなければならない事情があるのでしょう。私にとって納得の行く事情かどうかはともかく。
おばあさんに神の祝福があらんことを、と思いつつウェストミンスター・ブリッジを渡るのでした。