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「落下」or「降下」? 「銃殺」or「射殺」?

いぬ

通訳・翻訳者リレーブログ

先日(1月26日)、NHKでABC Nightlineのシフトに入っておりました。通訳自体は、まあ大過なくクリアできた(と思う)のですが、通訳の準備をしていた時に「ありゃりゃ……」と思うことがありました。

皆さんもご存じのとおり、アメリカ海軍の特殊部隊が、ソマリアの武装組織の拠点を急襲し、人質2人を解放しました。このニュースがABCでも流れたのです。

参考資料としてN原(「ニュース原稿」の意)が配られたのですが、そこにこんな一節が。

「特殊部隊の隊員は、夜間に輸送機からパラシュートで落下し」

おーい。単に原稿作成時のケアレスミスだと思いますが、死にますって。「落下」してどーすんですか。

自分の意志に反して落ちていくのが「落下」。この場合は自分の意志で、パラシュートを使って空中を「降りて」行くわけですから、「降下」とすべきですね。

「落下」とか書いてあったので、「これにより、1個中隊が全滅しました」とでも続くかと思いましたよ。あ、そういえば、ありましたよ、「落下」だか「降下」だか分からない空挺部隊の話が。

ザッと検索したところ、ウィキペディアにも載ってました。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%82%A2%E3%83%9C%E3%83%BC%E3%83%B3

抜粋します。

「なお、きわめて特異なエアボーンの例として、1942年2月末にソ連軍が行ったパラシュート無しでの降下作戦がある。現在のカルーガ州ユーフノフ西方のドイツ軍補給路付近に、超低空飛行中の輸送機から約1000名のソ連兵が飛び降りた。積雪による安全な着地を期待したものであるが、約半数が負傷し、ドイツ軍の反撃も受けて失敗に終わった。」

あれでしょうねえ、飛び降りる兵隊さんたちも「いや、ヤバいと思うんだけどなあ」とか首をひねりながら、輸送機から飛び出したんじゃないでしょうか。笑っちゃいけないのですが、不謹慎と思いつつも苦笑してしまいます。

同じような言葉遣いのミスですが、通訳学校で教えているときにshoot and killという英語を「銃殺」と訳している生徒さんが多くて、これにも首をひねりました。

「銃殺」は、処刑の方法です。通常は裁判などを経て、この方法での処刑が決定され、数人からなるfiring squad(銃殺隊)の前に引き出されて、刑が執行されることになります。

firing squadのうち、実弾を装填した銃が渡されるのは1人だけで残りは空砲(音だけで、弾は出ない)のだとか。これはfiring squad側の心理的負担を軽くするためなのだそうです。撃つ方だって嫌なものでしょうしね。

まあとにかく、shoot and killというのは、今回のソマリアなどの時もそうですが、銃撃戦などで「撃ち殺す」という意味です。漢語を使って若干(本当に「若干」ですが)オブラートにくるんで、「射殺する」と訳す場合が多いですね。

日本語は難しいです。

(おまけ)

ひところ、どうにも仕事をする気が進まない最中に、景気づけのため、ある曲のサビの部分を頭に思い浮かべていたのですが、数日前にラジオを聞いていて、その曲名が分かりました。

「断頭台への行進」です。
http://www.youtube.com/watch?v=Bb7BJQ7LAlo

なんだかなー。ぴったりというか、何というか。

曲名が気になって、妻が持っていた音楽事典で調べてみたところ、これはベルリオーズの「幻想交響曲」の第4楽章で、この交響曲は「アヘンで自殺を図った芸術家が、アヘンの量が足りなくて死にきれず、奇怪な幻想をみることになる。それを描いたもの」とのことです。

第4楽章は、「恋していた女性を殺してしまい、断頭台に送られる」という様子を描写したものらしいですよ。何か、陽気な曲だなあと思ってたんですが、文字通りの「引かれ者の小唄」って感じなんでしょうか。最後のあれは、ギロチンの描写だったんですねえ……。

ついでながら幻想交響曲についてウィキペディアで調べてみましたが、これも興味深かった。ほぼ、ベルリオーズの実話なんですよ。ま、ベルリオーズは、婚約者を殺す一歩手前で我に返って、やめたらしいですが。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B9%BB%E6%83%B3%E4%BA%A4%E9%9F%BF%E6%9B%B2

フランツ・リストやパガニーニ、メンデルスゾーン、アレクサンドル・デュマ、バルザック、ユゴーなどと同時代で、付き合いもあったそうですね。そういう人たちが生きている時代に生きるって、どんな気分でしょうか?

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記事を書いた人

いぬ

幼少期より日本で過ごす。大学留年、通訳学校進級失敗の後、イギリス逃亡。彼の地で仕事と伴侶を得て帰国。現在、放送通訳者兼映像翻訳者兼大学講師として稼動中。いろんな意味で規格外の2児の父。

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